「東京中央郵便局庁舎の保存問題」に関する見解を発表

東京中央郵便局庁舎の保存問題に関する見解
超高層計画の撤回と、庁舎全体を重要文化財として保存・活用することを求める
私たちは、東京中央郵便局庁舎(1931年)の重要性に鑑み、この度の高層化計画を撤回し、庁舎全体の保存・活用を求めます。
日本郵政グループは、これまでの度重なる建築関係三団体(日本建築家協会、日本建築学会、DOCOMOMO JAPAN)の東京中央郵便局庁舎の保存要望と、日本建築家協会や超党派国会議員有志結成の「東京中央郵便局庁舎を国指定重要文化財とし、首都東京の顔として将来世代のために、永く保存・活用を進める国会議員の会」、市民団体「東京中央郵便局を重要文化財にする会」らの重要文化財への指定同意の要請を無視し、高さ約200m(地上38階、地下4階建て、延べ21万m2)の超高層ビル計画を抜き打ち的にプレスリリースしました。

今まで、建築関係三団体は要望書において、この建築のかけがえなき価値を以下の3項目に集約しています。
1) 戦前の日本における近代建築の中でもっとも優れた建築のひとつである。
――様式主義から離脱し、機能、構造、材料等の合理性を徹底して追求する近代建築思想に、日本の伝統的な建築の特性――書院造や民家などに見られる架構を表出した明快な造り――との共通性を見出し、それを統合することを設計理念として追求した日本における近代建築の原点と評価される建築であること。
2) 日本近代の代表的建築家・吉田鉄郎の傑作である。
――この独自の設計理念を最初に自覚し、真摯に追及した設計者である吉田鉄郎(逓信省経理局営繕課所属[当時])は、戦前から戦後にわたり、日本の住宅、建築、庭園に関する3冊の著作をドイツで出版し、世界に日本の建築文化を知らしめた先駆的な功績者であり、東京中央郵便局庁舎は、さらに洗練させた大阪中央郵便局庁舎(1939年)とともに、日本近代の代表的建築家たるその吉田鉄郎の傑作であること。
3) 駅前の景観を構成する重要な要素になっている。
――この建築は、東京の玄関口とも言うべき東京駅丸の内側の南西に位置し、駅前広場を赤レンガの駅舎とともに構成する都市景観上、不可欠重要な建築であること。

以上の評価に私たちも賛同します。そのうえに東京中央郵便局は、
●近代国家制度の骨格を成す郵政事業を象徴し、あまねく国民に平等に応える建築であること。
●後続の大阪中央郵便局庁舎を通じて各種の庁舎建築や公共建築に影響を与える基となった建築であること。
●高さ制限31m時代の街区を構成した都市型建築を今に伝える、駅前地区に残された唯一の建築であること。
●国費を投じ、完成以来77年、激動の時代を超えて駅前に存在するのが当然のごとくなじみ、親しく利用されてきた国民共有の財産であること。等の重要性を持っていると考えます。
この建築は、以上の歴史的価値、文化的価値、景観・環境的価値、社会的価値を内蔵し、さらに技術的価値として当時の構造技術、使用材料、施工技術、そして設計と建設に従事した技術者と職人・労働者の技能と多大な労力を凝集体現しています。
万一これを取り壊すことになれば、その全てを失うことになります。基幹局としての窓口業務、事務業務、集配・仕分け業務、職員の宿直室・厚生施設等の複合機能に対し整然たる鉄骨鉄筋コンクリートの架構をもって応え、両者を緊密に統一した全体に価値が存するのであり、壊して外形だけを残し、あるいは復元しても、これらの価値を回復することはできません。
こうしたことに鑑み、国会の審議において文化庁は「重要文化財として指定を検討する価値を有している」と述べています(2007年12月13日)。

そして私たちにはこの建築を未来世代へ継承する責務があります。

一方、地球環境問題・温暖化防止が緊急の人類的課題である現代において、超高層化計画はそれに逆行し、取り壊し時、工事中、完成後にわたって多大な環境負荷を及ぼすことは明らかです。ナショナルサービスを提供する大企業としての、また、官営から転換された公共目的のための企業としての社会的責任は重大であり、自社の不動産収益のみを重視して広く社会が共有する諸価値をないがしろにする計画は、とうてい容認できるものではありません。
以上の理由により、日本郵政株式会社と郵便局株式会社は超高層化計画を白紙撤回し、これまでの各団体、国民諸層の要望を真摯に受け止め、東京中央郵便局庁舎全体を重要文化財として保存・活用することを、私たちは建築技術者として、また国民として強く求めるものです。

2008年7月22日   新建築家技術者集団東京支部幹事会

タイトルとURLをコピーしました