福島原発災害と大飯原発再稼働に関する見解
政府は,いま関西電力大飯原発3,4号機を再稼働させようとしている.電力会社自身が行うストレステスト(耐性試験)一次評価を妥当とし,さらに新たに設けた安全基準も満たしたとして,再稼働を要請する方向に動いている.
わたしたちは,東京電力福島原発の災害の根本的な原因が何であるかを国民の前に明らかにせずに,大飯原発再稼働を容認しようとする政府の対応に対して不信の念を深めざるを得ない.まして,福島原発災害による地元自治体の住民の放射性物質による被曝の実態を正確に把握することや地域の汚染状態を科学的に解明することもほとんど進んでいない状態で,どうして再稼働へと舵を切ることができるのか.元をたどれば,今回の事故の原因をつくったといえる経済産業省,原子力安全・保安院が安全宣言できる資格があるのかも問われる.
わたしたちは,こうした深刻かつ緊急の事態に対処する方向について,国民が納得できるような説明がいまだに行われていないことに原発推進の科学技術のゆがみを見ないわけにはいかない.また,そうした技術に人間の未来社会をゆだねることはできない.原発と隣り合わせの生活環境のなかにあって,これまでたびたび起こっている事故によって高まってきた地域住民の日々の不安と苦悩を深く共有することなく,建築物とまちづくりにかかわるエネルギー供給のシステムを,利用するだけの立場であったことを深く反省するとともに,大飯原発の再稼働には反対の意志を表明する.
そもそも政府の事故調査・検証委員会の「中間報告」でも,地震動によって格納容器内に何が起こったかは解明されていない.原発事故の根本に関わるその点については,科学的な調査と検証がいつ実施できるかも見通しが立たない状態である.東日本大震災に次ぐ大規模な地震が予測されている地震国日本で,本当の原因解明を不問にすることは許されない.
内部被曝に関する問題でも,「中間報告」は人体への影響についてはそのメカニズムが十分明らかにされていないという立場をとっている.これでは被災者はもちろんのこと,国民全体の被曝に関する不安を除くことはできない.
再稼働の「政治判断」は,「中間報告」の最終報告も行われていない段階で下されようとしている.これでは災害の真の原因の科学的評価が政府内では不問に付されることになりかねなく,真の原因が闇に葬られる危険がある.これは科学の本来の可能性や人知の深化を封じ込める科学進歩の自滅行為につながる.
わたしたち建築技術者は,原発導入による国の地域開発政策が福島の今回の災害をもって完全に破綻したと考える.使用済み核燃料をはじめとする放射性物質の科学的な完全処理の技術を確立し得ていない原発は,地域生活空間とは共存できない施設であった.政官財の「原子力ムラ」体制が押し付けてきた原発は,地域住民の生活空間とは「水と油」の異質の伏魔殿であった.「安全神話」は,この矛盾を覆い隠すために振りまかれたのである.
以上のような認識に立って,わたしたちは,大飯原発の再稼働に反対し,同時に次のように意思表明する.
1.政府と電力会社はすべての原発を停止し,廃炉にすること.そうすることによって,政府は,脱原発の社会を目指すという基本方針を国民に発すること.
2.政府は,福島原発災害による放射性物質の人体への影響とともに,生活環境,自然環境やすべての生産・仕事の環境への影響を科学的に明らかにし,人々の被曝への不安の原因を取り除くよう,特別の体制をもって継続的に対応すること.また,その原因を取り除くことによる地域生活空間の再生をどのように進めることができるかを地域住民が納得できるまで説明を続け,具体策を講じること.
3.政府は,特別立法をもって,すべての原発立地の地域と自治体が,原発のない地域づくり,まちづくりを進められるよう特別の施策を講じること.
4.原発を明確に放棄し,自然再生エネルギーの開発と供給を柱にして,現行の「エネルギー基本計画」をただちに抜本的に見直すこと.
5.わたしたちは建築技術者として,新建の活動の到達点を総括しつつその理念を高く掲げて,住み手・使い手とともに真に自然環境に適応し,自然環境と共生できる建築創造とまちづくりに一層貢献する決意である.
2012年4月26日 新建築家技術者集団