神宮外苑の大規模再開発の再考を求める
新建築家技術者集団東京支部幹事会
私たちは、東京の歴史の積み重ねを大切にした建築・まちづくりに携わる建築家、技術者の集まりです。神宮外苑は、国民の寄付や労働提供により1926年に完成して以来、東京を代表する貴重な都心部のオープンスペースとして、長年、都民に親しまれてきました。しかし今、大規模な再開発によって大きく変えられようとしています。2022年2月に開かれた東京都都市計画審議会で採決された地区計画の変更、公園まちづくり制度による規制緩和、市街地再開発事業等の開発計画案には様々な問題があり、建築とまちづくりの専門家集団として見過ごせません。ここに神宮外苑の大規模再開発に対する私たちの見解を表明し、行政関係部署及び事業関係者の再考を求めます。
1.超高層建築のための公園面積の縮小は大問題
開発計画案は、公園まちづくり制度を適用していますが、現在、都市計画公園区域である秩父宮ラグビー場の敷地約4.7haを未供用区域とし、高さ185mと80mの超高層建築2棟の敷地として約3.4haを都市計画公園区域から除外することは大問題です。「公園まちづくり制度」は既成市街地を含む公園区域があり、既成市街地が公園として未供用であることを解消する制度であり、既に「供用している」秩父宮ラグビー場区域を「未供用」とすることは制度の趣旨から外れています。このような制度活用は、超高層建築を建てたいため、としか考えられません。この制度と計画案の根本的な問題として、再検討を求めます。特に、現在23区の都民の一人当たりの公園面積は4.3㎡/人ですが、ニューヨークの1/4、ロンドンの1/6と諸外国の都市に比べても極めて少ない状況であり、公園区域を縮小すべきではありません。
2.歴史ある既存樹木は保存し、伐採は最小限に
緑については既に、日本イコモス国内委員会が都に見直しを提言しており、私たちはその提言に賛同します。とりわけ樹齢100年の樹木や銀杏の大樹は先人の思いを体現しており、同量の樹木を新たに植えたり移植することでは済まない歴史的な意味を持ち、何物にも代えがたいと考えます。そのため、再開発計画案の約1000本の樹木を伐採し、移植や新たに植えることは再考すべきです。私たちは、現在の位置で既存施設を改修すれば、樹木の伐採は必要最小限にすることが可能と考えます。
3.歴史ある優れた景観の破壊を許さず保存し、オープンスペースの確保を
青山通から入って北に延びる銀杏並木は、創建時以来大樹に育ち、正面に聖徳記念絵画館を望む視界には、背後の樹林以外は空のみが広がる都心部では得難い景観でした。東京都も風致地区指定でその保持に苦心してきたと理解しますが、近年その景観の左手、神宮プール跡地に新たなホテルが建ち、この景観を壊しました。さらに、あろうことか絵画館前の半長円の広場の東側に高さ15mの室内テニス場を2棟建て、左手の広場の外周道路に近接して、国立競技場より高い55mの大ボリュームの屋根付きラグビー場を計画しています。このような計画は明らかに貴重なオープンスペースを大きく狭め、歴史的景観を破壊するもので、厳に再考を求めます。
4.大規模再開発によらず、環境への負荷の少ない修復、改修型整備を
スポーツ施設の建替えのために巨大ビルを伴う再開発は必要ありません。建替え費用を再開発でねん出しなくとも、施設の維持・更新は個別の改修で充分対応可能です。現在は、何よりCO2排出抑制を追求すべき時代であり、既存の建築、施設をできる限り長寿命に使い続けることが課題です。既存建物を取り壊し、位置を変えて建替えることは多大なCO2を排出することになります。神宮球場やラグビー場については、歴史を受け継ぎつつ、時代に即した改修、更新により施設を一新することは可能です。そうした方法こそ追求すべきで、それがこの地区の建築の在り方と考えます。
5.多くの都民が共感と納得できる計画づくりを
多くの都民に親しまれ、都心部の歴史的な大規模なオープンスペースである神宮外苑の変更をもたらす大規模再開発が、都民に情報が十分伝えられないまま進行しているのは大問題です。記録によれば、区段階の審議会では、事業者は模型を用いて説明したとあります。計画が事業者の利益に偏らず、都民の利益にかなうためには、空間的に理解しやすい模型及び事業計画案等の情報を、都民誰もが見れるように公開し、改めて意見を募るなど、都民の意見を反映した計画への再考を強く求めます。
私たちは、神宮外苑は都民の立場から改善した方がよいと思っています。それは、雑多に建物が建ち、柵で施設ごとに仕切られているなどの現状を整理し、都民が利用しやすくすることです。そのために、私たちは、建築家、技術者として、都民の意向を反映した代替案を、都民と共につくりあげたいと考えています。