2025年7月に開催される「第67回自治体学校in東京 全体会リレートーク」
都民は東京の一人勝ちなど思っていない、過密は望んでいない、今より緩い「適密を」
千代崎一夫(新建築家技術者集団東京支部代表幹事)
日本全国で考えればバランスのとれた国土利用ということになります。
地方では「過疎」だからといって社会的なインフラまで減らされるのは困る、かといって「過密」はいやだ、ということで「適疎」という表現を作り出しました。
東京でも「過密」はいやだ。「適密」という都市生活をみんなで考えたいと思います。今でも東京ではざっと見ただけでも30棟ほどの超高層建築が計画されています。その敷地は再開発から生まれています。一見、都市機能や不燃化などの点で前進しているように見えますが、総体的に「生活の質」や「住環境」が向上したといえる事例はほとんどないと思います。
神宮外苑の再開発は、自由に立ち入れる緑の空間を失わせる懸念から、強い市民の反対運動が起こりました。となりにある東京体育館は1964年のオリンピックの国立競技場と高さの調和を考慮して建てられました。2021年の東京オリンピックでの規制緩和を機にバランスを無視した開発が進行。自然環境や景観を脅かすとして多くの著名人も声を上げる市民運動が展開されました。東京有数であるこの緑地空間に対して村上春樹(作家)、平尾剛(元ラグビー日本代表)、加藤登紀子(歌手)らが声をあげました。坂本龍一(音楽家)は亡くなる直前に小池百合子都知事らに手紙を送り、再開発の中止を求めました。23年4月22日に坂本龍一さんの遺志を受け継ぐ神宮外苑絵画館前の集会には、延べ6000人が集まりました。この集会はSNSを中心とした手段でのスタイルを切り拓いたと考えています。音楽家の坂本龍一氏の遺志を継いだサザンオールスターズの桑田佳祐の楽曲も、社会的な広がりを持った運動の象徴となりました。
道づくり・地下化の事例の成功例として、板橋区・練馬区などを通る「三六道路四季の道」(さぶろくどうろしきのみち)と下北沢駅周辺の小田急線地下化を紹介します。三六道路では、女性を中心とした住民との粘り強い交渉により、環境に配慮した車道、緑道や歩道が整備されました。行政と市民の協働が質の高い都市空間を生んだ象徴として、都が石碑を建てています。下北沢では小田急線の地下化によって生まれた空間が「下北線路街プロジェクト」として活用され、住民と鉄道会社が協力した新しい都市モデルが展開された。まちづくりは建物やインフラだけでなく、住民と行政・企業の協力で生まれるべきという好事例です。交差する京王線の地下化も楽しみです。見るだけで分かります、是非、見学をどうぞ。
まちづくりを学ぶ場の提案
「まちづくりを学ぶ場」を全国でつくりましょう。 家庭科では「衣食住」の中で「住」に関する教育が乏しいです。住まいのあり方だけでなく、日照・通風・緑地・交通など、まちの環境にまで学びを広げる必要があります。こうした学びが市民に「おかしい」と感じたときに立ち止まり、権利として異議を唱える力につながる。このような「権利を学ぶ場」としたい。直感や印象だけでなく、歴史的経緯や評価指標も学び合うことも重要とかんがえています。
「住民本位のまちづくりを主張する権利を学びましょう」