アカシアの家 ファンハウス見学会報告 ―地域で支え合うということ―
新建東京支部 企画部 澤田 大樹
埼玉県三郷市にある、「アカシアの家ファンハウス」という認知症高齢者共同生活介護施設です。昨年末の支部実践報告会で、とも企画設計の村上久美子さんから報告いただいたこの施設について、当日の交流会で「実際に皆で見学に行かせてもらおうよ」と話題になったことが、本企画の構想が始まるきっかけでした。
1.施設の位置づけと入居者の暮らし
JR 武蔵野線「新三郷」駅よりバスで5分、そこから加えて徒歩5分程の市街化調整区域内に計画されたファンハウスは、周囲を学校や田んぼに囲まれています。さほど遠くないところには産業廃棄物処理場などがあり、都心部での工事で発生した廃棄物はここで処理しているようです。続いて、当施設のコンセプトについてです。これは私の私見ですが、ファンハウスのテーマは「地域密着型サービスの具現化」、「農作業を通しての生きがいづくり」の 2 点だと考えています。
地域密着型サービスとは、そもそも高齢者が、希望する地域で生活できるように仕組みです。対象者は、指定を受けた市町村に住んでいる要介護認定を受けている方等で、通所サービスや訪問サービス、施設サービスなど様々な形態の介護があります。しかし、そのような施設は、周辺地域住民コミュニティと密接に繋がれていないところがまだまだ多いということが課題です。元来、高齢者や障がい者の介護、介助、補助は各家庭や地域の中で行われていました。つまり、各人の暮らしのなかで営まれてきたものなのです。しかしながら近年では、暮らしやコミュニティの変容により、それがかなわなくなったことでサービス化されてきたという経緯があります。
ファンハウスでは、認知症の方が自由に自分らしく生活することができるよう、外出をはじめとする 活動になるべく制限をかけないサポートをしています。その中で、ある方は自転車に乗り、近所の学校の敷地内に入ってしまうことがあるようなのですが、その学校もファンハウス入居者の人柄や施設の運営方針に理解があり、一緒に支えてくれるようです。それは、近所の住民の方も共通なようで、地域全体で支え合うようすがみてとれました。
また、敷地内には畑があり、実った色とりどりの野菜を収穫し調理する様子が見られました。収穫も調理も、入居者が自主的に行っています。「暮らしの中で生きる」ということを大切にしていることの表れだと感じます。
2.入居者の見守りと主体性の保障の葛藤
当日、ガイドをしてくださった施設長の寺田さんが、ファンハウス内の案内中に何度も話していたこ とがありました。それは、「入居者の自由な暮らしと、施設としての見守りのバランスをとることが難しい」ということでした。
ファンハウス内には、個室とは別に入居者がひとりになりたいときに一息つくことができる空間があります。そこは、「談話コーナー」と呼ばれ、入居者が周囲の視線から解放されるよう、スタッフルームや居間(食堂)から視ると死角に確保されています。とはいえ、見守りの観点とは相反することなので、入居者が談話コーナーから外に出る窓やドアに近づくと、フロア内にお知らせ音が鳴るように設備設計 がされています。
また、1階各個室の掃き出し窓からは、入居者が自由に行き来することを施設として許容しています。 転倒による怪我や、施設からの脱走のことを考えると心配になることはもちろんですが、その点も施設ではバランスをとりながら日々の暮らしを保障することを念頭にサポートをしているようです。
一方で、寺田さんは「見守りと主体性の保障は、そもそも背反構造ではない」とも話しています。確かに、暮らしの中の生活においては、孫がじいちゃんばあちゃんを見守ることは当たり前ですし、誰が何をどう考え生活しても(限度はありますが)、それは個人の自由といえます。家族というコミュニティ内では当たり前にできていることを、ファンハウスの中でどのように展開していけるかを、今後も考えたいと仰っていました。住まいづくりに関わる者として、住まう人の想いを、葛藤や矛盾も含めて理解していくための努力を積んでいきたいと考えた企画でした。
三郷市にある認知症グループホーム「アカシアの家ファンハウス」(高齢者フループホーム1ユニット+若年性認知症グループホーム1ユニット)設計、監理を担当した、とも企画設計・村上さんの案内で見学会を実施します。ファンハウス施設長・寺田さんから生活の様子をうかがいます。
7月19日(金)
9:30 集合 JR武蔵野線「新三郷」駅
10:00~12:00 見学会
12:00~13:00 終了後ランチ交流会
参加希望者は、7/12(金)までに下記、澤田までメールください。
zo-sawada@mist.dti.ne.jp