秩父宮ラグビー場と神宮球場の現在地での再生提案

お知らせ

秩父宮ラグビー場と神宮球場の現在地での再生提案

2024.2.27
新建築家技術者集団東京支部
東京問題研究会 神宮外苑問題検討チーム

 私たちは、住む人、使う人の立場に立ち、住まい・まちづくりをすすめる建築、都市計画の専門家集団です。私たちは、2022年7月に、神宮外苑再開発に対する「見解と提案」を公表し、神宮球場は歴史的、文化的価値を評価し、現在の施設を使い続けることを提案しました。秩父宮ラグビー場も現施設を使い続けることを求めていますが、この施設を管理運営する日本スポーツ振興センター(以下JSC)が、耐震診断の結果を公表したことから、これを踏まえて提案しています。また、外苑内のJSC所有地については、都市計画公園としての再整備を提案しています。神宮球場については、2023年に神宮球場長が再開発以外にないと発言したことから、その根拠に対して反論し、改めて使い続けることを提案しています。
 なお、この二つの競技場を保存再生活用すれば、絵画館へ向かうイチョウ並木から分かれて秩父宮ラグビー場に向かうイチョウ並木を含め、外苑の既存樹木は全て保全できます。また、建て替えに比し、CO2の排出を大きく抑制できます。
私たちの提案は、都民や専門家とともに検討するたたき台と考えており、多くの方々にご意見、ご提案をいただき、より豊かな内容にしたいと考えています。

1 秩父宮ラグビー場の改修活用

幾多の名勝負の記憶が刻まれた秩父宮ラグビー場を改修して活用し続ける

 秩父宮ラグビー場はラグビー関係者の熱意により、戦前、女子学習院があり、敗戦後、一時米軍が接収していた土地に、戦後いち早く1947(昭和22)年11月、グラウンドとして開設されました。以来、大学ラグビーでは早慶戦、早明戦など関東大学対抗戦やリーグ戦の各試合、年末年始の全国大学選手権の準決勝戦や社会人選手権の決勝戦、日本代表では対イングランド戦、対スコットランド戦などの幾多の歴史に残る名勝負が行われたラグビー場であり、その記憶はファンに深く刻まれています。また、創建当初にご尽力をいただいた秩父宮雍仁親王の名を冠した競技場でもあり、西の花園ラグビー場と合わせ、日本のラグビーフットボールの聖地と言う人もいます。

 そうした歴史的蓄積と由緒を備えた施設として、この場所でこの施設を維持継承することこそが重要であると考えます。

◼️ 現秩父宮ラグビー場の改修について
 JSCは「築76年を迎える秩父宮ラグビー場は施設全般の老朽化が激しく、ユニバーサルデザインの導入など多様なニーズへの対応が必要だが、改修・増築や現在地の建替えでは実現不可能」(参考:「新秩父宮ラグビー場(仮称)基本計画」令和3年6月 日本スポーツ振興センター)としています。しかし、76年とはラグビー場としてグラウンドが開設された1947年からの経年です。メインスタンドなどの建築は1976年9月完成で築47年であり、適切な改修は充分に可能と考えます。

Ⅰ.耐震改修について
 2010年に日建設計が行った秩父宮ラグビー場とその関連施設の耐震診断による「耐震診断評価報告書」には診断結果概要と補強方針について以下が示されています。
① 西スタンド・メインスタンド(1976年築)
 全体モデルでは基準耐震性能を上回っている。部分ごとのゾーン検討では中央部、南側で判定指標値を下回っており部分的補強が必要となっている。
 ⇒鉄骨ブレース壁の新設並びに既存壁の増厚補強による単純な補強。
  鉄骨造屋根に関しては、屋根面ブレースの新設と一部既存水平ブレース撤去などの修正を行う。
②南スタンド(1980年築)
 耐震性能を上回っている。⇒耐震補強不要である。
③ラグビークラブハウス(1971年築)
 一部補強が必要である。⇒一般的な単純な耐震補強が可能。
④東テニス場クラブハウス(1967年築)
 事務室部分の一部に極脆性柱があるが、全体的には指標基準値を上回っている。⇒極脆性柱の解消と耐震スリットの新設。
 上記のように耐震診断結果と耐震補強方針が示されているのです。
 なお、バックスタンド並びに北側スタンドは新耐震基準施行(1981年)以降の建築であり、現行耐震基準を満たしていると考えられ、耐震補強対象からは除かれています。
 つまり現秩父宮ラグビー場は、老朽化には当たらず、適切な部分的耐震補強を施せば、これからも十分に使用出来る耐震化が可能であることが示されています。


■計画されている新ラグビー場の問題―対比のために
 ラグビーは屋外の全天候型スポーツです。どんな天候でも試合を行い、高度な技術を競い合うものであり、室内ではラグビー本来の姿が失われます。ちなみに、再開発で計画されている新ラグビー場は、イベント重視に傾倒し、屋根を持つインナースタジアムであり、客数1.5万で、秩父宮ラグビー場2.5万人の3分の2に減少します。
 また、試合やイベント時の照明、換気、空調に多額の費用が掛かるだけでなく、維持管理費も多額になります。
 その上、聖徳記念絵画館と国立競技場に近接した位置に巨大なヴォリュームの建造物を建てることは、外苑の広やかな空間を破壊し、先人が努力してきた外苑の形成史への敬意を全く欠いています。

 以上のように、既存ラグビー場の改修が比較的容易に可能であることに対し、計画されている室内化されるラグビー場には大きな問題があり、計画の合理性は見当たりません。
JSCは、国の予算を使う公的な機関であり、国民の利益、福祉のために、計画を見直し、既存活用に切り替えることを、私たちは強く提案します。

2 JSC所有地を公園として再整備

 JSCは、文部科学省が所管する日本のスポーツ振興を目的とする独立行政法人です。JSCは神宮外園内に所有する敷地に会員制のテニスクラブを設置し、敷地西側は門扉で仕切り守衛を配置して未供用区域(一般の人々が自由に出入りできない区域)としています。これはJSCの身勝手な一方的な判断です。しかも、未供用区域を理由に公園まちづくり制度を利用し、都市計画公園区域を廃止し、開発業者が超高層ビルを建てることを可能にしています。こうした営利を目的とした判断を看過できません。国の付属機関としてあるまじき行為と考えます。

 このJSC所有地は、都市計画公園区域であり、本来だれもが自由に利用できる公共空間です。テニスコート及び関係施設を廃止し、だれもが憩える緑豊かな公園として再整備することを提案します。これにより、神宮球場と秩父宮ラグビー場は、公園を介して一体的な空間となることが期待できます。

3 神宮球場の再生
    (2023年10月25日新建築家技術者集団東京支部決定を転載)

 私たちは、神宮球場を壊さず使い続けることを主張してきました。現在の神宮球場は2013年~16年まで3年をかけて耐震補強工事をしており、存続を望む署名が約4万人に達しています。それに対し、神宮球場の球場長が、現在の神宮球場では安全や快適性を提供するには困難として、以下の①~④の4項目を挙げ、解決するには再開発への参加以外ないと理由づけています。
① バリアフリー化が困難
② 歩車分離ができない
③ コンコースが狭い
④ バックヤードの不足
上記以外に合わせて下記の問題があります。
⑤ スタンドの座席の狭さの解消と座席の増設
⑥ 工期不足と工事用の敷地不足
 このことに関連して、新建はどのように考えるかの問いが、一部の団体やジャーナリストから寄せられました。そこでこれに答えることを中心にして、現在の神宮球場を活かし使い続けるため検討を重ね、見解と提案をまとめました。
 なお、出された問題を検討するには、現在の神宮球場の詳細な図面(平面図、断面図、矩計図、構造関係図書)等が必要ですが、得られていません。従って、以下は、一般観客が入れる神宮球場の内外エリアの視察に基づくもので、選手や試合関係者、球場の運営管理関係者が使うエリアは視察できていない条件での見解です。

① バリアフリー化が困難 ⇒ エレベーターの設置は可能
 バリアフリーの問題は、球場長が「球場の構造上や、球場内外のスペースの狭小によりエレベーター(以下EV)を設置出来ない。」と発言していますので、1階入り口レベルから、スタンド・観客席中間通路レベルへ、車椅子で到達できるようにEVの設置を検討しました。
スタンドの外部のアーケード部にEVシャフトを設けることを提案します。1階の入り口は、現在の喫煙コーナーの入り口同様に、外部でかつ、入場券のもぎり線の内側に設け、2階通路へは、外壁の2階の通路階の突き当りを開口し、EVの2階の乗降口から車椅子等で内部通路に出入りできるように繋ぎます。(写真1、2、3)
 EVは1塁側、3塁側内野席に対しそれぞれ2か所設けるとよいでしょう。

② 歩車分離ができない ⇒ 歩行者デッキの設置
 現在、人と車が併用で球場を取り巻く通路を使っています。試合当日は、車が通る際には球場係員が笛を吹くなどして歩行者に注意を促して安全を確保しています。(写真4、5) そこを通る車の量は極めて少なく、文化財として評価がある球場であり、現在のままで運用するのが望ましいと基本的に考えます。しかし、球場管理者から見て歩車分離が、再開発で解決せねばならぬほど安全上重要なことであるなら、現在の外周壁の外側の通路部分の上に歩行者デッキを鉄骨造で建設することを提案します。その場合、外観が変わるので慎重を要し、周辺の樹木に触れないことはもとより、デザインを充分に考慮する必要があります。

 デッキを設ける範囲については、球場の要の正面周りにも回すかどうか、デッキへの階段の位置、大型バスを入れる範囲など様々な検討が必要です。
このように歩車分離の方策はいくつか問題がありますが、そのためには具体的に神宮球場側や事業者が明らかにする必要があります。

③ コンコースが狭い ⇒ コンコースの狭さの是正
 スタンド下、内部のコンコースの狭さの改善については構造壁の位置やバックにある部屋により拡幅できるかどうか決まります。
 いずれにせよバックヤードの不足の解決方法同様、歩行者デッキの増設などにより内部化できるスペースができれば解決方法はあると考えます。(写真6)

④ バックヤードの不足 ⇒ 不足機能の充足
 球場長は「プロ野球を行う球場として不足している部屋、機能に応えられない」と主張していますが、歩行者デッキを増設すれば、1階外周のアーケード部分の大部分は内部化でき、その部分を利用して不足機能の一部を納められるでしょう。また、広さを必要とする不足機能は、第2球場が解体された現在、そこに別棟で新設すればよいと考えます。(写真7)

 以上が、球場長が問題点とした項目に対する私たちの見解と提案ですが、この他にも、内野席の幅が40cmで他の球場より狭いことや、スタンドの中間通路より上部の席への階段の蹴上寸法が不揃いであるなどの指摘があります。以下そのことについて述べます。

⑤ スタンドの座席の狭さの解消と座席の増設
 神宮球場の内野席の座席幅は40cmと他球場と比較して狭く、改善のため幅を広げると、既存の枠内では席は減ります。幅をどのくらいに広げるか、それによる、その減席数がどのくらいかは検討が必要ですが、図がないので不明です。しかし減席分をある程度補い増やす方策はあります。(写真8、9)
 最近の球場にみられる左右両翼の外野のファウルグランド側に、東京ドームの「エキサイトシート」のように増設する方法と、内外野の観客席を上部へ増築する方法が考えられます。
 前者はこの球場では、現在ブルペンとしてそのスペースは使われており、そこで登板に備える選手を見るのを楽しみにしている観客もいます。また、スタンド下にブルペンを移すスペースは容易には設けられそうもありません。また、神宮球場では、スタンドが内野席奥で断ち切られ、外野側スタンドの間に人が通れる隙間があり、外部とグランドをつなぐ空間になっています。1塁側では、おそらくヤクルトのクラブハウスから選手がグランドへ入る通路になり、3塁側では、ビジターチームの更衣室を含む別棟からグランドへの通路になっています。またフリー打撃練習用の折りたたみ式バックネットの引き込み場所にもなっています。従って集客目的でファウルグランドに観客席を設けることは難しいと思われます。
 後者の増設は、横浜球場や仙台の楽天球場の客席増築のように、内外野の客席の最上部を増築し外側に持ち出すことです。その場合は増築部を支える自立した鉄骨柱の建設が必要ですが、周辺の高木に触れないように建てねばなりません。景観への配慮も重要です。
 第2球場が解体された現在、そちら側への外野席の増設が比較的容易で、シーズン中でも工事は可能と思われます。歩行者デッキをもし設けるなら、鉄骨柱を上部に伸ばし増設観客席の床を支える構造にすれば、一体化した解決になります。いずれにしても、現在のナイター用照明塔の柱に接する直前までの増設で、景観に充分な配慮が必要です。

●中間通路から上部の2階観客席部分の急勾配と座席内階段の急傾斜に関して
 「急勾配」の問題とは何か、明確化が必要です。
観客席の中間通路から上部の勾配 が下部の座席エリアより急ですが、現状は着席すれば、前に座る人の頭越しに視野広くグランドがよく見渡すことが出来る利点があり、これはこのまま活かすべきと考えます。(写真10)。
 また、上部客席内の階段の踏面と蹴上寸法が一定でない問題は、階段から客席横列への出入りに関係しており、解決は容易ではなく、この球場の特徴、建設時の判断の遺物として受け止めるのもやむをえないと考えます。

写真10

⑥ 工期不足と工事用の敷地不足
●工期の問題
 オフシーズンの期間では諸々の改修工事は出来ないと球場側は主張しているようですが、改修工事の方法によって多くのこと、例えば先述のEVの設置などは可能です。
また、1年のオフシーズンに限定せずに、甲子園球場が4年のオフシーズンで改修工事をしたように、必要な年月をかければいいことです。
いずれにせよ、現在の再開発計画では完成が2036年になっており、今から12年後です。それに比すれば改修工事も1年で行う必要はありません。
●工事用地の問題
 第2球場が取り壊された現在では、現場小屋や資材置き場として、その敷地は活用出来ます。また2本一組の高く太いナイター用照明ポールは神宮球場の特徴の一つですが、その工事を過去に実施しています。1塁側ではJSCの敷地に接し、スタジアム通りでは道路境界に接しており両方とも敷地境界ぎりぎりに建っています。もしスタンドを増設するなら、外部足場はそのポールの直径の幅で可能と思われます。鉄骨の建設手順をよく検討し、自己敷地内で建設できる範囲に限定することも一案です。 

4 再開発計画を見直し神宮外苑本来の姿に再生

 CO2排出削減・脱炭素・SDGs持続可能な社会実現は現代の世界的潮流です。その実現のためにも、再開発計画や建物建替えなどによる大きなトータルエネルギーロスを抑え、既存施設の適切な改修有効利用などが求められています。神宮球場や秩父宮ラグビー場を壊して建て替えることは、多大なCO2を排出するだけではなく、完成後は内部空間が大きく、照明と換気、空調で多大な電気エネルギーを消費し、全くSDGsに逆行しています。
 私たちは、事業者の再開発計画の見直し、神宮外苑の歴史、文化そして緑豊かな自然環境を守り、育てる計画を提案しています。(参考として簡易パンフレットをご覧ください)
簡易パンフレット→https://nu-ae.com/tokyo/2212-pamphlet/

タイトルとURLをコピーしました