東京都知事 小池 百合子様
東京都環境影響評価審議会会長
柳 憲一郎様東京都環境影響評価審議会委員各位
神宮外苑地区再開発事業の施行認可撤回と環境影響評価再審議の要請
神宮外苑地区再開発の再考を願う建築・造園・都市計画・環境の専門家有志(◎有志代表)
石川幹子(東京大学名誉教授、造園学、都市環境学)
◎糸長浩司(元日本大学教授、環境建築学)
岩見良太郎(埼玉大学名誉教授、都市計画)
大方潤一郎(東京大学名誉教授。都市計画)
原科幸彦(千葉商科大学学長、東京工業大学名誉教授、環境学)
藤本昌也(日本建築士会連合会名誉会長、建築設計)
若山徹(新建築家技術者集団会員、まちづくり)
◆ 「生きている化石」イチョウに衰退の危機が発生
事業者が「環境影響評価書」において、すべて健全(活力度♙、B)と報告しているイチョウに、顕著な衰退が進んでいることが、専門家により行われた2022年11月~2023年11月の1年間の調査で明らかになりました。なかでも、昨年の猛暑のなか、並木の西側2列のイチョウ8本に衰退が生じていま
す。気象庁は昨年の猛暑は温暖化の影響としています。一方、樹林帯で守られている東側2列のイチョウは健全でした。
この問題は、既に2021年より事業者も認識しておられ、市民からの指摘もあったものです。「環境影響評価書」は、科学的な正しい現状分析に基づいて、予測・評価が行われることが基本です。温暖化が進む中で、樹林帯で守られていない西側のイチョウを、猛暑からどう守るかが喫緊の課題です。
◆ 国際イコモスのヘリテージアラート発出
私たち専門家有志は、神宮外苑の環境保全を求め、2023年3月8日(月)以来、建築・造園・都市計画・環境政策等の420人の専門家の署名をもとに「施行認可の撤回及び環境影響評価の継続審議」を求める要請書を二度にわたり都知事、都議会議長及び環境影響評価審議会会長に提出してきました。2023年9月には、国際イコモスが「神宮外苑は世界の公園の歴史にも例のない文化的資産」として、
ヘリテージアラートを発出し、再開発の中止と環境アセスメントのやり直しを求め、国際イコモスに回答するよう要請しました。しかし、東京都は「一方的な情報でしか入っていない」とし、公式の回答を行っていません。
東京都知事及び東京都環境影響評価審議会はこれまでも日本イコモスの数十回にわたる公開質問や協議要請に対し公式の回答と公開討議の場を設置するような努力をしていません。貴重な公共的空間の大改造に関して、専門的視点からの問題提起と公開質問や要請に対して、公的機関としての責務を果たしてない状況です。
◆ 環境影響評価書の修正のための再審議
東京都は事業者に対し既存樹木の保全の具体策を示すよう要請し、解体工事は中断しています。このことは、事業者の環境影響評価書の杜撰さを東京都自身、認知したことを意味します。また、数回にわたる環境影響審議会での審議の不十分さ、さらには、審議会が了承した審議結果に欠陥があったことを、東京都が認めたということにもなります。とりわけ、都知事も事業者も保全を約束している銀杏並木のイチョウに衰退が生じていることを見逃したのは重大です。
以上のような環境影響評価に関する一連のゆゆしき事態が生じたのは、調査・評価手法や並びに評価結果に、科学上の重大な瑕疵があったからに他なりません。評価書が公表されたこの段階においては工事を一旦中止し、日本イコモスの調査結果と事業者の評価書とを比較・検討して、評価書を修正し、その上で、計画の変更なども含む、環境保全のための方策を講ずることが必要です。
環境影響評価における環境保全とは、環境影響評価条例の目的に規定されている通り、公害の防 止、自然環境のみならず、歴史的環境の保全、景観の保持等です。これらについて、科学的、客観的調査に基づき審議するために専門家を招聘して実施する審議会が用意されています。評価書の修正のため、文化的資産や景観等の評価に必要な専門家を加えた環境影響評価審議会を改めて開催し、評価書の再審議を行うことを要請します。
以上