神宮球場を活かし使い続けるための見解と提案

声明・提言

2023.10.25
新建築家技術者集団 東京支部

2022年来、神宮外苑再開発に対する新建築家技術者集団(以下「新建」)東京支部の「見解と提案」において、神宮球場や秩父宮ラグビー場を壊さず使い続けることを主張してきました。現在の神宮球場は2013年~16年まで3年をかけて耐震補強工事をしており、存続を望む署名が約4万人に達しています。それに対し、神宮球場の球場長が、現在の神宮球場では安全や快適性を提供するには困難として、以下の①~④の4項目を挙げ、解決するには再開発への参加以外ないと理由づけています。
① バリアフリー化が困難
② 歩車分離が出来ない
③ コンコースが狭い
④ バックヤードの不足
上記以外に合わせて下記の問題があります。
⑤ スタンドの座席の狭さの解消と座席の増設
⑥ 工期不足と工事用の敷地不足
 このことに関連して、新建はどのように考えるかの問いが、一部の団体やジャーナリストから寄せられました。そこでこれに答えることを中心にして、現在の神宮球場を活かし使い続けるため検討を重ね、見解と提案をまとめました。

 なお、出された問題を検討するには、現在の神宮球場の詳細な図面(平面図、断面図、矩計図、構造関係図書)等が必要ですが、得られていません。従って、以下は、一般観客が入れる神宮球場の内外エリアの視察に基づくもので、選手や試合関係者、球場の運営管理関係者が使うエリアは視察出来ていない条件での見解です。

① バリアフリー化が困難 ⇒ エレベーターの設置は可能です。
 バリアフリーの問題は、球場長が「球場の構造上や、球場内外のスペースの狭小によりエレベーター(以下EV)を設置出来ない。」と発言していますので、1階入り口レベルから、スタンド・観客席中間通路レベルへ、車椅子で到達できるようにEVの設置を検討しました。
 スタンドの外部のアーケード部にEVシャフトを設けることを提案します。1階の入り口は、現在の喫煙コーナーの入り口同様に、外部でかつ、入場券のもぎり線の内側に設け、2階通路へは、外壁の2階の通路階の突き当りを開口し、EVの2階の乗降口から車椅子等で内部通路に出入りできるように繋ぎます。(写真1、2、3)
EVは1塁側、3塁側内野席に対しそれぞれ2か所設けるとよいでしょう。

② 歩車分離ができない ⇒ 歩行者デッキの設置
 現在、人と車が併用で球場を取り巻く通路を使っています。試合当日は、車が通る際には球場係員が笛を吹くなどして歩行者に注意を促して安全を確保しています。(写真4、5) そこを通る車の量は極めて少なく、文化財として評価がある球場であり、現在のままで運用するのが望ましいと基本的に考えます。しかし、球場管理者から見て歩車分離が、再開発で解決せねばならぬほど安全上重要なことであるなら、現在の外周壁の外側の通路部分の上に歩行者デッキを鉄骨造で建設することを提案します。その場合、外観が変わるので慎重を要し、周辺の樹木に触れないことはもとより、デザインを充分に考慮する必要があります。
 デッキを支える鉄骨柱は、アーチ状の開口がある外壁側の既存柱に相応する位置と外側に門型に建て、上は歩行者、下はサービス車が通れるようにします。
 デッキのレベルはスタンド内の中間通路と同じレベルに設定し、既存アーチをくぐり、アーケード内部をブリッジで渡り、外壁をくり抜いて設ける入口は階段上の通路位置と合わせ、そこから入り、スタンドへ至るようにします。入り口になる箇所のアーチの中間の梁は撤去し、構造上必要なら補強します。デッキの幅は、外壁からナイター用照明を支える円柱までの数mです。(写真5) 
デッキを設ける範囲については、球場の要の正面周りにも回すかどうか、デッキへの階段の位置、大型バスを入れる範囲など様々な検討が必要です。
 このように歩車分離の方策はいくつか問題がありますが、そのためには具体的に神宮球場側や事業者が明らかにする必要があります。

③ コンコースの狭さの是正
 スタンド下、内部のコンコースの狭さの改善については構造壁の位置やバックにある部屋により拡幅できるかどうか決まります。いずれにせよバックヤードの不足の解決方法同様、歩行者デッキの増設などにより内部化できるスペースができれば解決方法はあると考えます。(写真6)

④ バックヤードの不足 ⇒ 不足機能の充足
 球場長は「プロ野球を行う球場として不足している部屋、機能に応えられない」と主張していますが、歩行者デッキを増設すれば、1階外周のアーケード部分の大部分は内部化でき、その部分を利用して不足機能の一部を納められるでしょう。また、広さを必要とする不足機能は、第2球場が解体された現在、そこに別棟で新設すればよいと考えます。(写真7)

 以上が、球場長が問題点とした項目に対する私たちの見解と提案ですが、この他にも、内野席の
幅が40cmで他の球場より狭いことや、スタンドの中間通路より上部の席への階段の蹴上寸法が不揃いであるなどの指摘があります。以下そのことにつて述べます。

⑤ スタンドの座席の狭さの解消と座席の増設
 神宮球場の内野席の座席幅は40cmと他球場と比較して狭く、改善のため幅を広げると、既存の枠内では席は減ります。幅をどのくらいに広げるか、それによる、その減席数がどのくらいかは検討が必要ですが、図がないので不明です。しかし減席分をある程度補い増やす方策はあります。(写真8、9)

 最近の球場にみられる左右両翼の外野のファウルグランド側に、東京ドームの「エキサイトシート」のように増設する方法と、内外野の観客席を上部へ増築する方法が考えられます。
 前者はこの球場では、現在ブルペンとしてそのスペースは使われており、そこで登板に備える選手を見るのを楽しみにしている観客もいます。また、スタンド下にブルペンを移すスペースは容易には設けられそうもありません。また、神宮球場では、スタンドが内野席奥で断ち切られ、外野側スタンドの間に人が通れる隙間があり、外部とグランドをつなぐ空間になっています。1塁側では、おそらくヤクルトのクラブハウスから選手がグランドへ入る通路になり、3塁側では、ビジターチームの更衣室を含む別棟からグランドへの通路になっています。またフリー打撃練習用の折りたたみ式バックネットの引き込み場所にもなっています。従って集客目的でファウルグランドに観客席を設けることは難しいと思われます。
 後者の増設は、横浜球場や仙台の楽天球場の客席増築のように、内外野の客席の最上部を増築し外側に持ち出すことです。その場合は増築部を支える自立した鉄骨柱の建設が必要ですが、周辺の高木に触れないように建てねばなりません。景観への配慮も重要です。
 第2球場が解体された現在、そちら側への外野席の増設が比較的容易で、シーズン中でも工事は可能と思われます。歩行者デッキをもし設けるなら、鉄骨柱を上部に伸ばし増設観客席の床を支える構造にすれば、一体化した解決になります。いずれにしても、現在のナイター用照明塔の柱に接する直前までの増設で、景観に充分な配慮が必要です。

●中間通路から上部の2階観客席部分の急勾配と座席内階段の急傾斜に関して
「急勾配」の問題とは何か、明確化が必要です。
観客席の中間通路から上部の勾配 が下部の座席エリアより急ですが、現状は着席すれば、前に座る人の頭越しに視野広くグランドがよく見渡すことが出来る利点があり、これはこのまま活かすべきと考えます。(写真10)

 また、上部客席内の階段の踏面と蹴上寸法が一定でない問題は、階段から客席横列への出入りに関係しており、解決は容易ではなく、この球場の特徴、建設時の判断の遺物として受け止めるのもやむをえないと考えます。
  
⑥工期と工事用の敷地不足
●工期の問題
 オフシーズンの期間では諸々の改修工事は出来ないと球場側は主張しているようですが、改修工事の方法によって多くのこと、例えば先述のEVの設置などは可能です。
また、1年のオフシーズンに限定せずに、甲子園球場が4年のオフシーズンで改修工事をしたように、必要な年月をかければいいことです。
いずれにせよ、現在の再開発計画では完成が2036年になっており、今から13年後です。それに比すれば改修工事も1年で行う必要はありません。
●工事用地の問題
 第2球場が取り壊された現在では、現場小屋や資材置き場として、その敷地は活用出来ます。また2本一組の高く太いナイター用照明ポールは神宮球場の特徴の一つですが、その工事を過去に実施しています。1塁側ではJSCの敷地に接し、スタジアム通りでは道路境界に接しており両方とも敷地境界ぎりぎりに建っています。もしスタンドを増設するなら、外部足場はそのポールの直径の幅で可能と思われます。鉄骨の建設手順をよく検討し、自己敷地内で建設できる範囲に限定することも一案です。 

 以上が、私たちの「神宮球場を活かし使い続けるための見解と提案」です。

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