2023.10.05小林良雄、柳沢泰博、若山徹
昨年来の神宮外苑再開発に対する新建東京支部の「見解と提案」において、神宮球場や秩父宮ラグビー場を、壊さず使い続けることを主張してきました。それに対し、球場長が安全や快適性を提供するには困難として、以下の4項目を挙げ、解決するには再開発への参加以外ないと理由づけています。
① バリアフリー化が困難、②歩車分離が出来ない、③コンコースが狭い、④バックヤードの不足
このことに関連して、新建はどのように考えるかの問いが、一部の団体やジャーナリストから寄せられました。以下は、コアスタッフの検討結果と見解を、「ハフポスト」からの質問に答える形式でまとめたものです。
出された問題を検討するには、現在の神宮球場の詳細な図面(平面図、断面図、矩計図、構造関係図書)等が必要ですが、得られていません。以下の回答、見解は、選手や試合関係者、球場を運営管理関係者が使うエリアは視察出来ていませんが、一般観客が入れる神宮球場の内外エリアの視察に基づきます。
■ハフポストの質問(「 」内)と回答(▼)
「神宮球場は改修可能か、をテーマに、下記のような点を伺いたく思っています。」
「Ⅰ.「神宮球場はバリアフリーや席の狭さ、2階部分の急傾斜、コンコースの狭さなどの問題を抱えていますが、客席の数を減らさずにこういった問題は解決できるものでしょうか」
▼バリアフリー:席を減らさず、エレベーターの設置は可能
バリアフリーの問題は、球場長が「球場の構造上や、球場内外のスペースの狭小によりエレベーター(以下EV)を設置出来ない。」と発言していることに鑑み、1階入り口から、スタンド・観客席中間レベルの水平移動用通路へ、車椅子で到達できるようにEVを設置することとするなら、解決策はあります。
現在、中央入り口を除き、内野席への入口ホールが一塁側、三塁側にそれぞれ2か所あり、そのホールに各々、並んだ二つの入口があります。入口には時計周りにナンバーがついています。
エントランスホールに入ると吹き抜けており、左右に入口に対応して、外壁に沿う直進階段があります。それを上って右折、ないしは左折して室内通路を進んで外部の観客席中間の水平移動通路に達します。
この通路レベルへ、地上1階床レベルから、EVで到達できれば解決します。
現在のEVは機械室を必要とせず,EV走行シャフト内に昇降機構をおさめるタイプが主流です。また、最上部の乗降床レベルからシャフトの最上部までをオーバーヘッド(OH)が、車いすが乗れる11人用EVで3.15mです。油圧式ではもっと低く、概ね2.5mです。ただし、油圧式では最下階の床下に機構の一部を納めるピットが必要になりますが、その設置は可能です。
EVシャフトの内法は、車椅子対応11人乗で1.8m×2.0mです。
EVの設置では、EVのシャフトをホールの内部に設けるか、外部に設けるか、二つの方法が考えられます。内部設置の場合はOH寸法が取れるかどうかです。各エントランスホールの天井は外側に上昇する観客席床(コンクリート)の裏側です。グランド側に近づくほど天井高さは低くなりOH寸法が取れなくなる可能性があります。現地での計測の結果、内部にEVを設置はすることは困難としました。
●外部にEVシャフト設ける:外部、アーケードに外壁に沿ってEVシャフトを鉄骨で建て、ガラス等で囲みます。1階の乗り口は入場券もぎり線の内側で且つ外部に設けます。現在の喫煙コーナーへの出入り口と同様の処置です。OHは確保でき、内部ホールの広さは今まで通りです。2階通路へは、外壁の2階の通路階の突き当りに開口を設け,EVの2階の乗降口から車椅子等で内部通路に出入りできるようにします。
EVは1塁側、3塁側内野席に対しそれぞれ2か所設けたいものです。
シャフトの部材やEVの機械、箱等は前もって工場で製作しておき、現場では、床下ピットと柱基礎のコンクリート打ちと、工場で製作した部材の組み立てだけです。1年のオフシーズの3.5ヵ月で、完成可能です。
▼席の狭さの解決には座席数の減が伴うが、一方、観客席数を増やす方策はある。
席の幅を広げると、既存の枠内では席は減ります。その減席数がどのくらいかは図がないので答えられません。減席分を補い増やす方策はあります。
最近の球場にみられる左右両翼の外野のファウルグランド側に、東京ドームの「エキサイトシート」のように増設することと内外野の観客席を上部へ増築することです。前者を検討しまたが、この球場では、現在ブルペンとしてそのスペースは使われており、そこで登板に備える選手を見るのを楽しみにしている観客もいます。また、スタンド下にブルペンを移すスペースは容易には設けられそうもありません。また、ベルーナドーム(西武球場)に倣い、ブルペンと「フィルドビューシート」のように増設観客席を半分ずつにする方法も考えましたが、スタンドでは内野席奥の学生野球で応援団席になる部分の先に、スタンドが断ち切られ、外野側スタンドの間は、外部とグランドをつなぐ谷間の空間になっています。1塁側では、おそらくヤクルトのクラブハウスから選手がグランドへ入る通路になり、3塁側では、ビジターチームの更衣室を含む別棟からグランドへの通路になっています。またフリー打撃練習用の移動できる折りたたみ式バックネットの引き込み場所にもなっています。従って集客目的でファールグランドに観客席を設けるのは難しい。
後者の増設は、横浜球場や仙台の楽天球場の客席増築のように、内外野の客席の最上部を外へ持ち出すことです。その場合は増築部を支える自立した鉄骨柱の建設が必要で、周辺に高木がないか確認が必要です。
第2球場が解体された現在、外野席の増設が比較的容易で、シーズン中でも工事は可能と思われます。また内野席部分は後述する外周に歩行者デッキを設ける際に、工期は別にしても、鉄骨構造は一体化してスタンドを増設する方法が考えられます。
いづれにしても、現在のナイター用照明塔(柱)に接する直前までの増設です。
▼2階観客席部分の急傾斜に関して
観客席の中間通路から上部の勾配 が下部の座席エリアより急である部分の是正は必要か、現状は、着席すれば、前に座る人の頭越しに視野広くグランドがよく見渡すことが出来る利点があります。
「急勾配」の問題とは何か、実態調査による明確化が必要です。
客席内の階段の踏面と蹴上寸法が一定でない等の問題や、外野席に近い内野席の一番奥の上部には、一部ねじれているエリアがあり、検討が必要です。
ねじれを解消し均一の勾配に是正するのであれば乾式工法で工期短縮を考えると、既存のコンクリート床の上に、段床に直角に、傾斜なりに鉄骨の梁を掛け、そこにプレキャストの軽量コンクリートスラブを掛け渡すか、軽い木製デッキの材料で段床を形成することなどが考えられます。
その際、構造の安全性の検討は当然必要になります。
階段の不規則性は、階段から客席横列への出入りに関係しており、充分に検討する必要があります。
▼コンコースの狭さの是正
スタンド下、内部のコンコースの狭さの改善については構造壁の位置により拡幅できるかどうか決まります。既存の詳細図面が求められます。
▼不足機能の充足
球場長は「プロ野球を行う球場として不足している部屋、機能に応えられない」と主張しているが、後述する歩行者デッキを増設すれば、1階外周のアーケード部分の大部分は内部化でき、その部分を利用して不足機能の一部を納められるでしょう。また、広さを必要とする不足機能は、第2球場が解体された現在、そこに別棟で新設すればよいのではないでしょうか。
Ⅱ.「改修の工期を確保するのが難しいという指摘もありますが、オフシーズンを利用しての改修は可能でしょうか?」
改修工事方法によって可能であると考えます。
1年のオフシーズンに限定せずに、甲子園球場が4年のオフシーズンで改修工事をしたように、必要な年月をかけることになります。
いずれにせよ、現在の再開発計画では完成が2036年になっており、今から13年後です。それに比すれば改修工事も1年でやる必要はありません。
Ⅲ.「神宮球場にはどのような歴史的価値があるでしょうか」
1926年に神宮外苑の完成と一緒に完成した球場であり、戦前から東京六大学野球や東都大学野球が行われてきた学生野球のメッカと言われる球場です。ことにプロ野球が始まる以前の大学野球の早慶戦は、野球ファンにとって天下分け目の試合であり、それは神宮球場で行われました。
歴史的には下記のウィキペディアを参照してみてください。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%8E%E6%B2%BB%E7%A5%9E%E5%AE%AE%E9%87%8E%E7%90%83%E5%A0%B4
Ⅳ.「秩父宮ラグビー場も試合を開催しながら改修できるものでしょうか?」
試合を開催しながらでは、ごく一部を除いて無理でしょう。夏のオフシーズンは短くなってきていることを考えると、メインスタンドを建設した時のように、工事期間中は別のグランドを活用することです。
現在のメインのスタンドを建設した際(1976年9月完成)にはシーズン中も工事し、早明戦などは国立競技場を使ったのです。早明戦が国立競技場で行うようになったきっかけです。近年、ラグビーの世界大会が行われたことから埼玉県の熊谷市をはじめ各地にラグビー場が建設され、現在は数多くあり、秩父宮ラグビー場を1,2年使わなくても支障はなくゲームを組めるのではないでしょうか。
1976年竣工のメインスタンドの建設時には、大学対抗戦、リーグ戦の試合や、全国の選手権大会の最初の試合なども各大学のグランドで実施しました。
重要な大学選手権の試合は、国立競技場を使うなど、管理者は同一の日本スポーツ振興センター(JSC)ですので、いくらでも融通できるはずです。
いずれにしても、先人たちが熱い思いで創建し、引き継いできた秩父宮ラグビー場は、この地で、この施設を活かしてこそ日本ラグビーの聖地であると考えます。
Ⅴ.「球場側は、工事をするには敷地が狭く困難であり、また、歩車分離が出来ず、安全性に問題がある、とも主張していますが、これに対して、どう考えますか。」
▼工事用地の問題
現在、第2球場の解体が行われています。その第2球場跡地を工事中には資材
置き場や、工事管理事務所の設置、一部職方の車の駐車場として利用できます。
スタジアム通り側には、道路境界に迫ってプロ野球のビジターチーム用の更衣室等を含む建物が建っていますが、その工事は実施できたのですから、高木に支障なきように配慮した一定の工事は可能でしょう。
▼歩車分離―歩行者デッキの設置とスタンドの増設
歩車分離が何より重要であるなら、一案として、現在の球場の外周壁の外側のサービス車が通る人車共用の通路部分の上に歩行者デッキを鉄骨造で建設することが考えられます。
デッキを支える鉄骨柱は、アーチ状の開口を持つ外壁側の既存柱に相応する位置と外側に門型に建て、それを繋ぎ、延伸して、1塁側、3塁側とも内野席に沿って設置し、上は歩行者、下はサービス車が通れるようにするのです。
デッキのレベルはスタンド内の中間通路と同じレベルに設定し、既存アーチをくぐり、アーケードの上をブリッジで渡り、外壁をくり抜いて設ける入口は階段上の通路位置と合わせ、そこから入り、スタンドへ至るようにするのです。その進入口のアーチにある横つなぎ梁はぶつかるので撤去しますが、構造的に補強すればよいことです。
デッキの幅は、外壁から、ナイター用照明を支える円柱の内側までの数mです。
デッキを球場の要の正面周りにも回すかどうかはデッキへの階段の位置や、大型バスを入れる範囲と合わせ、様々な検討が必要です。大型バスは梁下3.8m以上の空き寸法がなければならず慎重を要します。球場外壁に接する地盤レベルはスタジアム通りより一段高いので、梁下寸法を確保するためには、バスを入れる範囲は、地面を削るなども考えられますが、バスを入れるゾーンにはデッキを設置しないことも考えられます。
▼スタジアムの増設
デッキを支えるフレーム、門型の柱を上部に伸ばし、観客席の増設部分を支える構造にすれば、一体化した解決になります。先述したように延ばしても照明ポールまでです。
2本一組の高く太い照明ポールは神宮球場の特徴の一つですが、その工事を過去に実施したのであり、スタンドを建設する際の外部足場はそのポールの直径の幅で可能と思われます。鉄骨の建設手順をよく検討し、借地なしで建設できる範囲に限定するのも一案です。