220708 神宮外苑再開発問題 見解と提案

お知らせ

神宮外苑再開発に対する見解と、神宮の杜の歴史と文化を継承する再生整備の提案

私たちは、住民主体のまちづくりと住み手・使い手本位の建築創造を目指す建築家、技術者の集まりです。東京の都市再開発に対しては、住民の暮らしやまちの環境を守るために運動してきました。神宮外苑に関連しては、2014年と16年に新国立競技場の建設とオリンピック・パラリンピックの施設に関する提言を行いました。今回の再開発計画に関しては、2022年3月に大規模再開発の再考を求める声明を公表し、都知事には見直しの要請をしています。
ここに発表するのは、3月の声明を具体化し、神宮外苑の大規模な再開発に対する私たちの見解を明らかにし、神宮外苑のまちづくりのあり方を提案するものです。この見解と提案をもとにして、都民・地元住民の皆さん、行政や事業に関係する皆さん、都市計画・建築・造園等団体の皆さんが、様々な場で外苑再生の議論をしていただきたいと思っています。

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1 外苑の歴史や杜の価値を再認識し、創建時の計画思想を尊重する

明治神宮は、日本の近代化、欧風化を進める中で日本の伝統の在り方を模索し、新しい神社像として創建されました。それが内苑・外苑・連絡道路です。明治神宮はこの三つを一つにして神宮としています。内苑は明治天皇を祀り、外苑は天皇の業績を、聖徳記念絵画館を建てて顕彰する場としました。併せて国民が一緒に集い楽しめる施設が必要であるとしたことから、絵画館前の芝生広場や陸上競技場などを建設しました。その上、外苑は多くの国民の協力(献金、献木、勤労奉仕)のもとに建設がすすめられ、このことが後に広く国民に親しまれる場になった一因と思われます。

関東大震災後の1924年、一足先に完成した競技場では全国規模の「明治神宮競技大会」が開かれ、近代スポーツの拠点となりました。関東大震災復興によって生まれた東京の新風景を描いた版画「昭和大東京百図絵」(37年)には絵画館と競技場の二枚が入っています。戦時下には不幸にして学徒出陣の壮行会が行われましたが、戦後は国に移され国立競技場として再出発し、アジア大会(58年)や2度の東京五輪(64年、2021年)の会場になりました。このような歴史を持つ神宮外苑は今後も、国民に親しまれる外苑として在り続けることが強く望まれます。

 1) 外苑とパークシステムの設計意図、風致地区第1号指定

明治神宮の設計思想は内苑を伝統的な「森」に、外苑を新しい「近代的公園」に意味づけました。

欧米のパークシステムを参考とした連絡公園道路により内苑と外苑を一体と関係づけ、銀杏並木は街と結び、その軸上に芝生広場を設ける園地の構成です。

神社という極めて伝統的な場において、欧米の都市設計、公園設計手法を導入した神宮外苑はその設計手法ゆえに新しい神社空間になったのです。神宮には内苑へ向かう表参道と裏参道、それに内外苑連絡道路の三つの関係道路があります。この沿道は1926年、神社同様の「崇敬の対象」として日本で初めて風致地区に指定されました。

2) 外苑の空間構成と施設配置、環境を守るための努力の歴史

創建時の外苑の空間構成は欧風庭園にならい、地区の北部に森で囲んだ聖徳記念絵画館を配し、その前に広大な芝生の広場を設け、その二つを長円形の園路で囲んでいます。そこを全体の中心とし、青山通りから4列の銀杏並木路を設けて街からのアプローチとしています。広場の中央部には銀杏並木の延長上に梯状の園路を通す他は芝生のみとし、図2のように外側に向けて植栽の密度を増し、周りが森を成す計画です。この広場の中央部では、空の広がりを見渡せて、開放感を満喫できるしつらえです。

絵画館前広場の西側には、森で囲まれたスポーツ施設が配置されました。西北部端部に陸上競技場、南西端部に野球場(以下、神宮球場)とその隣に相撲場を配し、その二つは外苑全体と同じ1926年に完成しました。高さがある競技場と球場のメインスタンドは、絵画館を重視してそこから最も離れた位置に設けています。31年には内外苑連絡道路の北側に水泳競技場が造られました。

40年の東京五輪開催が決定した時、主競技場はここでの建替えが多くの人の主張でしたが、前のベルリン五輪(36年)を視察した岸田日出刀は、大規模の競技場を建替えるにはこの場所は狭く、また、外苑全体の性状に合わぬとして、駒沢を提案し、外苑を守りました。

戦時中は絵画館前広場の芝を剥がして陸軍が兵舎を建て、戦後は進駐軍が接収し、そこを野球場やバレーコートとしました。現在の軟式野球場はそれを踏襲したのです。戦後1950年、外苑一帯は「明治公園」の名称で都市計画公園に指定され、後に数次の変更があり、21年4月1日現在の公園面積は52.3haです。51年には外苑地区、約95.4haが風致地区に指定されました。

ところが、創建時に風致地区指定された表参道と裏参道は71年、内外苑連絡道路は77年に、相次いで指定が廃止され、後者部分は既に61年に都市計画公園からも除外されており、環境保全の後退が始まっていました。58年のアジア大会に際して競技場を建替えましたがスタンドの最高高さは球場の外野席の高さ8mを限度とし、64年の五輪時の増築でも建設省の設計者は最大限の努力で最高高さ23.5mに抑えました。しかし、2020東京五輪における高さ47.3mに達する新国立競技場の建設は、これまでの先人の努力を無にしています。


3) 戦後のスポーツ施設の無秩序な増設

戦後は、1957年以来テニスコートが増設されつづけ、ゴルフ練習場やフットサルコート、絵画館広場には軟式球場の他に、プロ野球のヤクルト球団の本拠地化に伴い野球の室内練習場(64年)やバッティングセンター(88年)が建てられました。これらの施設に統一感はなく雑然としています。特にゴルフ練習所の高いフェンスは景観を破壊して最悪です。

また、絵画館の西側背後には、フットサルコート(旧水泳競技場)を廃止し建てたホテルが樹木の高さを超えて見え、森で囲まれた絵画館を望む景観を壊しています。これは、スポーツクラスターより商業開発を優先している証です。今回の再開発計画によって、外苑の歴史・文化が大きく改変されることが懸念されます。外苑創建時の計画思想を受け継ぐあり方を追求する必要があると考えます。

2 再開発計画による外苑の大改造から伝統ある環境を守る

神宮外苑の整備再編は、国立競技場の建替えに伴う規制緩和や敷地整備を契機に構想されたといわれています。2013年に「神宮外苑地区地区計画」が都市計画決定され、15年には6関係権利者(明治神宮、JSC:日本スポーツ振興センター、高度技術社会推進協会、伊藤忠商事、日本オラクル、三井不動産)と東京都が覚書を交わして、地区計画が動き出しました。22年3月に地区計画の変更が都市計画決定され、計画の大枠が明らかになりました。

1) 球場・ラグビー場の建替えと超高層ビル建設を一体に行う再開発

この計画では、秩父宮ラグビー場は位置を変え屋根を掛けた人工芝のアリーナに建替え、神宮球場も移動して野球を観覧できるホテル付の新球場に建替えられます。いずれもエンタテイメント性の強い施設へ変身します。そして、伊藤忠本社敷地と明治公園から削除した敷地に、公園・施設敷地から容積率を移転して、現在の伊藤忠本社ビルの2倍の高さの超高層ビル二棟(地上38階:185mと40階:190m)と高さ80mのビルを建設します。

この施設建替えとビル建設は、一体の再開発事業として施行されます。これにより施設の建替え費用の軽減が図れるとされていますが、むしろ、容積率緩和による利益を目的とした大規模開発事業が主目的ではないかと思われます。この開発のための再開発計画によって、前節で述べた歴史的に形成された外苑の杜の環境が、はなはだしく壊されてしまうと多くの人々が懸念を抱いています。

2) 容積率の緩和と移転による不動産収益とその行方

そもそも、この計画は外苑地区で継承されてきた都市計画のルールを逸脱し、風致地区や都市計画公園に指定された地区で再開発事業を行うものです。そのために、低未利用地の活性化・高度利用を目的にした「再開発等促進区を定める地区計画」を歪んだ形で使っています。

まず、業務ビル建設のために、既に高度利用されている青山通り沿いの伊藤忠商事などの敷地を、計画地区として取り込みました。さらに、都の「公園まちづくり制度」に依って、秩父宮ラグビー場敷地は公園として未供用であるとして都市計画公園から削除しました。ラグビー場は、敷地を開放的にして整備すれば公園として十分に供用できたはずで、公園からの削除は余りに恣意的です

つぎに、こうして生み出した業務ビル用地の容積率を「再開発等促進区」によって嵩上げし、さらに公園・スポーツ施設の敷地から容積率を配分(移転)して上乗せします。再開発で建替えられる伊藤忠ビルは現行の容積率600%が1150%に、公園から削除された敷地の新設ビルは200%が900%に引き上げられます。その上、容積率は土地価額の高い処へ移転されたので、ますます膨大な不動産収益が生まれます。

問題はその行方です。再開発の事業計画が明らかにされていませんが、球場とラグビー場の建替えは移転した容積率に対応したもので、いわば自腹を切っての等価交換だと考えられます。とすると、不動産収益は超高層ビルの新たな床(保留床)に集められ、その所有者が手にすることになります。

これが、延々と進められてきた「明治神宮外苑地区地区計画」の到達点であるなら、この地区計画の本当の目的は何だったのか、環境をここまで壊して実施する意味のある事業なのか、改めて問い直す必要があるのではないでしょうか。

そのためには再開発事業計画の開示が必要です。ところが、この再開発は個人施行として進められ、都市計画決定されないので、社会的なチェックなしで進行します。都民の共有財産となっている外苑地区における20ha近い大規模な再開発です。少なくとも都市計画事業として市民の声を聞くべきです。

3)  連鎖型建替えで生じる環境破壊

また、再開発による環境破壊を一層拡大するのが、施設の連鎖型建替えです。これは第二球場跡にラグビー場を移築し、その跡に球場を移築する方式で、施設を休業せずに建替えができるとされていますが、その分工事が大規模化・長期化し、様々な弊害を生みます。

第1に、現球場を残したままで移築するため、新ラグビー場(高さ55m)は、国立競技場(高さ47.3m)に異常に接近しています(計画図上20~30m)。通常では考えられない配置計画です。一方、新球場は青山通り側の2本の超高層ビル(右図の事務所棟と複合棟A)側に寄った配置になっています。ここは球場へのアプローチなのですが、余裕のない非常に圧迫感のある空間が出現します。

第2に、工事範囲が拡大するため、事業者によれば苑内の1904本の樹木うち1056本が伐採・移植されることになります。新球場は銀杏並木にも接近しているため、根張りへの影響の懸念が払しょくされていません。100年間培ってきた外苑の緑環境は破壊されます。

第3に、工事期間が13年間にも及び、いつも一部工事中の状態が続き、公園利用は制約を受けます。

これらの問題は次節で提案する改修主体の整備ならば全く生じません。一般的なモデル建築で、ライフサイクルCO2は建設時23%、運用時52%、修繕・更新時22%、廃棄時3%です。事業者は業務ビルの運用時に20%抑制すると言いますが、建替え(廃棄+建設:26%)の方が、運用時の20%削減(10%)よりも余程大きい値になります。持続可能な環境を大改造して、大量の資源とエネルギーを消費するこの計画は、持続可能な開発目標であるSDGsと真逆の行為です。

さらに、再開発によって取り払われるテニスコートを絵画館前広場に移した上、広場の絵画館寄り東側に高さ15mの2棟の室内テニス場を建てる計画も提案されています。実施されれば、絵画館へのビスタを阻害し、広場の広がりを失わせ、臨時の陸上トラックの設置を不可能にします。テニスコートが会員制クラブの専用なら、この広場を私するものでもあり、創建時の空間計画思想を全くないがしろにする暴挙です。

4)  東京都は本来の外苑整備計画の練り直しを

この間、東京都は開発推進の立場を取り続けてきましたが、風致地区や都市計画公園を指定した環境保全施策を思い起こし、かつ未来を見据えた施策に舵を切るべきです。まずは、市街地再開発事業を認可せず、地区計画の実施を止めるべきです。そして、明治神宮やJSCと共に、次節で提案する住民らが参画した組織で、本来の外苑整備を練り直すことが正しい都政ではないでしょうか。

3 主要施設は改修し、利用者主体の公園とスポーツクラスターを整備する

神宮外苑は、東京都の4大スポーツクラスターの一つに位置付けられています。しかし、神宮外苑再開発計画は、都民のスポーツや健康増進よりも商業・業務施設による賑わいを優先し、結果的にスポーツ施設を減らし、歴史・文化を継承した森の環境や景観を破壊する結果になりかねません。

私たちは、神宮外苑の近代的公園としての設計思想を受け継ぐ再生を提案します。

1)  神宮外苑の全体像の提案

絵画館前広場は、もとの芝生広場に再生し、青山通りに至る銀杏並木及び秩父宮ラグビー場に至る銀杏並木ともに、東京を代表する緑の景観として保存します。

スポーツ施設の配置は、創建時の配置を基本に、神宮球場と秩父宮ラグビー場は現在地での改修を行います。神宮第二球場併設ゴルフ練習場は廃止し、跡地を都民が利用しやすい施設や公園としての利用を検討します。

また、ラグビー場に隣接したJSC所有地は公園とし、明治公園、旧第二野球場、絵画館前広場、神宮球場及び秩父宮ラグビー場を結ぶ緑のネットワーク(歩行網と植栽)を創出します。施設の改修は、現行(地区計画決定以前)の建築物用途、形態規制及び風致地区、文教地区指定を前提とします。また、ユニバーサルデザインに配慮した施設づくりを行います。

2) 個々の施設の改修等の提案

◇神宮球場

神宮球場は、伝統ある東京六大学野球リーグ戦を始め、全日本大学野球選手権大会やその年の大学と高校野球の最後を飾る明治神宮野球大会が開かれる等まさに学生野球の聖地です。またプロ野球の球団ヤクルトスワローズのホーム球場であり、日本シリーズも幾度も行われる等、アマ、プロ両方の名勝負が数多く行われた球場です。

一方、間もなく完成後100年になる建造物は、重要文化財の絵画館と同じく建築家・小林政一によって設計され、ベンガラ色のモルタル吹き付けの外装や、球場を取り巻くアーチ型に刳り抜かれた外壁には建設された時代の表現主義的な造形が見られ、文化財としても価値ある歴史的な建造物です。これまでグランドや各種施設の整備を進め、2013~16年に耐震補強を完了し、内部もトイレ周り等を改修し、明るくするなど努力がなされてきました。プロ野球全12球団のホーム球場の好きな球場アンケート(2022年)では、甲子園球場や東京ドームを抜いて第2位でした。広がる空、緑に囲まれていることも評価されています。

座席の狭さは拡幅すればよく、客席部分の建て増しによって客席数の減少を極力抑えることができます。観客サービス施設の充実は、外部の地上レベルのアーケードを必要面積分、ガラスで仕切り、外観を変えずに内部化し、増設できます。今後も充分利用可能な施設であり、歴史的に価値ある貴重な球場は取り壊すことなく、継続した活用を提案します。

◇秩父宮ラグビー場

秩父宮ラグビー場は、専用施設がなかった戦後すぐに、関東ラグビーフットボール協会関係者が用地取得や資金調達に尽力し、ラガーマンの勤労奉仕により1947年に建設されました。以来、関東大学ラグビー対抗戦やリーグ戦の試合に使われ、早慶戦、早明戦等の幾多の名勝負が行われてきました。また、社会人ラグビーのリーグ戦や選手権大会の会場になり、全日本の代表チームがイングランド代表や、スコットランド代表との歴史に残る試合を行った競技場でもあり、ラガーマンのあこがれの地です。日本ラグビーの歴史が刻まれているこの競技場を受け継ぎ永く使い続けることは文化としても大変、重要なことです。

ラグビー場はJSCが「耐震補強が大きな課題」としており、現ラグビー場の耐震補強を最優先し、継続利用することを提案します。首都直下地震の緊迫性を考えれば、いまだに耐震補強が行われていないことは、選手、観客の命に係わる問題をないがしろにしていることになります。耐震補強が必要なら、工事はオフシーズンに短期間に行うこともできます。

新ラグビー場計画案では、収容人員は25,000人であり、現在の施設の収容人員は24,871人で、十分対応可能です。また、飲食、カフェ等の観客へのサービス施設の充実は、メインスタンド下の2階のオープンテラスをガラスで囲んだり、フロント広場側へ2階レベルで増築したり、改修できるスペースがあります。

なにより、現施設の改修、耐震補強であれば、18本の銀杏並木は伐採せずに残せます。

◇銀杏並木沿道のテニスコート及び関連施設

野外のテニスコートは、銀杏並木との間に植栽帯を設け、銀杏の根の保護に役立ち、また屋内テニスコートも低層であり、銀杏の根への負荷は少ないと考えられることから、現状を維持すべきと考えます。

◇日本スポーツ振興センター(JSC)所有地及び各施設

ラグビー場の北側に隣接するJSC所有地は、一般開放し公園として整備することを提案します。JSC本部は、新たなビルに移転、テニスコート及びクラブハウスは廃止し、跡地とラグビー場西側駐車場を一体的な公園として整備することにより、神宮球場とつながる緑のネットワークをつくり、公園まちづくり制度による未供用の扱いを解消します。

◇第二球場併設ゴルフ場跡地

この跡地は、西側の明治公園から絵画館前広場へつながるオープンスぺースとし、絵画館前広場にあった軟式野球場以外のスポーツ施設と他の施設を含め、都民が利用しやすい施設をこの跡地に移すなどその可能性について明治神宮や利用者と協議し整備することを提案します。

◇青山通り沿道の景観と環境の維持

青山通り沿道は、地元組織が港区青山通りまちづくり協定を結んでおり、港区景観計画では「青山通り周辺景観形成地区」に指定され、建物のスカイラインを重視し、高さの最高限度は60mです。現在の伊藤忠商事ビルは総合設計制度による緩和で90mの高さがありますが、この倍以上の190mの高さにする再開発案は街並み景観を壊すものであり、新たな風害や日影被害も懸念されます。

現在のビルは、風害への考慮、光庭を活用した自然光の取り入れなど今求められている省エネルギー、CO2排出削減に対する工夫、創意が先駆けて実行されており1982年にBCS賞(日本建設業連合会が文化の進展と地球環境保全を寄与する建築作品を表彰)を受賞し、建築後40年しか経過していません。100年以上の寿命を想定していたと思われるこのビルを壊し、建替えることは多大なCO2排出を招き、全く時代に逆行する行為です。

3) スポーツクラスターの管理運営の提案

外苑の一連のスポーツ施設の管理主体は、東京体育館等と明治公園は東京都、外苑の樹木を含め、絵画館前広場や神宮球場はじめスポーツ諸施設は明治神宮が関わり、国立競技場とラグビー場、一部テニスコートはJSCに分かれています。スポーツクラスターとして、利用者意向の反映と、全体の統一的な持続可能な維持管理のために、関係自治体を含め関係者が集い協議運営する維持管理組織の創設を提案します。特に、土地・建物所有者にとって外苑の維持管理負担が問題であるならば、その問題に関する情報公開を行い、都民も含めて方策を検討すべきです。

維持管理組織は以下の業務を行うことが考えられます。

*利用者(団体)との定期的協議による意向把握
*都・区の景観計画に基づく建築物の意匠、色彩等の統一
*樹木、植栽の維持管理、持続的な植生調査、専門家の助言
*維持管理費用の公開
*維持管理や改修費用は公的助成やクラウドファンディングを検討 等

4 都民が参画する外苑整備と都市計画諸制度の適正な運営を求める

1) 情報公開の徹底と都民参画の仕組みづくり

神宮外苑再開発について、2022年3月10日、東京都は地区計画変更の都市計画決定を行いましたが、地元住民及び都民への周知が不十分なままでした。そのため、環境影響評価審議会における「都民の意見を聴く会」公述では、地域住民に対する広報の不十分さ、事業者が真摯な対応をしていないという指摘が多く出されました。

環境影響評価審議会では、各委員の質問に対する事業者の回答及び環境影響評価の根拠とするデータが不十分なため、異例の継続審議となっています。都民は公述人にならなければ、印刷資料を入手できず、閲覧期間に閲覧場所に行くか、ダウンロードも印刷もできない評価書案を、Web画面で見るしかありませんでした。著作権をタテにした、このような対応は都民に情報を公開し、意見を求める姿勢とはいえません。小池都知事も、事業者に具体的な整備計画や都民参画の取組などの詳細な情報をわかりやすく発信することを要請するに至っています。

私たちは、こうした経緯から、情報公開の徹底と都民参画による外苑整備の再検討を提案します。

東京都、事業者の資料閲覧及び資料提供手段の改善

再開発等促進区において事業者が目的や概要を記した「企画提案書」と、提案に対する東京都の評価「企画評価書」が公開されていないので、東京都がどういう根拠で容積率の緩和を判断したのか分かりません。重要な両書の公開は不可欠です。

そして、事業者などの資料は閲覧のみでなく、出力・印刷可能にすること、一般の都民へは、模型やアニメーションも使うなど、積極的な工夫をした説明を求めます。

また、計画の目的や事業計画の根拠となる神宮外苑の各施設の管理運営費用等も公開し、計画の是非を検討すべきです。

住民協議会(周辺住民・都民)、利用者団体、専門家、事業者(土地・施設所有者)、東京都による協議体制

私たちは再開発計画を見直し、外苑整備を再検討すべきと考えています。その再検討にあたっては、図7のように関係者・団体が一堂に会した協議体制をつくるべきです。東京都は自治体として、この協議体制をしっかり支援する責任があります。

2) 開かれた都市計画の決定過程への改善

神宮外苑開発について、2022年2月9日の都市計画審議会は、パブリックコメントで出された都民意見103件のすべてが反対意見、新宿区と港区からの附帯意見があったにもかかわらず、ペーパーとスクリーンとによる説明のみで、新宿区都市計画審議会では採用された模型展示も認めないという運営でした。審議会委員に対して十分な説明が尽くされたとは言いがたいものです。

また、環境影響評価及び地区計画の変更手続き中にもかかわらず、新ラグビー場の入札公告が行われるなど、事業のすすめ方や都市計画手続きと環境影響評価手続きに整合性がありません。私たちは、このような状況を改善することを求めます。

都市計画決定の過程に環境影響評価を正しく位置付ける 

都市計画、事業計画策定の前段に、計画段階での環境影響評価(計画アセス)を実施することとし、計画段階での説明会や協議の資料として活用すること、環境影響評価の公述や審議会結果を都市計画審議会などで公開し、議論の対象とすることを求めます。

各種審査会の丁寧な審査と体制の拡充 

都市計画や環境影響評価などの審査会では、前段で述べたように情報公開を徹底し、検討材料もそろえた丁寧な審査が必要です。また、行政内部だけで審査・運用できる仕組みや事前の事業者との協議のあり方改善も必要です。再開発等促進区の計画手続きでは、企画提案書及び企画評価書作成は、事業者と行政のみの協議で行われており、公平・公正な審査が行えるように、建築や都市計画などの専門家を加えることが必要です。

都市開発諸制度、特に再開発等促進区の厳密な適用

外苑の再開発計画は、①位置、面積、目標や整備方針、再開発促進区の範囲などを定めた「神宮外苑地区地区計画」を都市計画決定し、②都の検討会で、「公園まちづくり制度」を利用した『2020大会後の外苑地区まちづくり指針』を策定し、③これをもとに地区整備計画(街区ごとの用途規制や容積率など)を定め、④その条件で市街地再開発を行うという手順です。

予め再開発等促進区の網を掛けておき、検討会などの便宜的な組織で方針を決め、それを地区整備計画で実効ルールに定めるという、一見手順を踏んでいるようですが、そもそも再開発等促進区は工場跡地などの低未利用地を対象に、既存の規制に捉われないというインセンティブを与えて高度利用を促す、都市開発制度です。適用を誤れば都市は増々肥大化する劇薬であり、自治体はどの地域に適用するかは厳密に対応すべきです。

さらに、東京都は都市計画決定からおおむね50年以上経過し、公園としての供用のめどの立たない公園・緑地を対象に、再開発等促進区を利用した開発を条件に都市計画を変更する「公園まちづくり制度」を創設しました。本制度の東京都決定第1号の神宮外苑は、都市計画公園区域を減少し、大規模再開発を誘導するという誤った適用であり、公園の整備という本来の目的から乖離しています。現在、芝公園地区で同様の計画が予定されていますが、大規模な再開発につながることを懸念します。

東京都の人口も減少に向かい、テレワークの普及によりオフィス需要も大きく変化しています。私たちは、都市を肥大化する規制緩和主体の都市行政を転換し、地域の歴史や文化を大切にして豊かな自然を創出するまちづくりを進める時期であると考えます。

この神宮外苑再開発に対して多くの市民と専門家が、都心部に残された歴史・文化を継承した杜の環境や景観を破壊すると、疑問や見直しの声をあげています。また、東京新聞の都民意識調査では、神宮外苑再開発に7割が反対という結果も出ています。

東京都には都市計画の決定権者としての責務を果たすために、本提案を受け止めていただくように要請します。

図版出典_________________________________________

図1及び図2『神宮外苑の歴史を踏まえた新国立競技場整備への提言―大地に根差した『本物の杜』の実現のために-』
日本学術会議 環境学委員会 (平成29年《2017年》2月3日)(出典)明治神宮奉賛会(昭和12年3月)『明治神宮外苑志』
図3    「神宮外苑地区公園まちづくり計画 公園まちづくり計画の概要」に着色加工
図4-1   Google-Earth Proの現状航空写真
図4-2   令和3年7月21日港区建設常任委員会資料№1「神宮外苑地区の街づくりについて」に加筆
図5    「事業計画の変更について-(仮称)神宮外苑市区市街地再開発事業-」令和2年1月
図6     現状航空写真(Google-Earth Pro)に再生イメージを加工

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