岩手県 「津波が39の防潮堤越す 本県沿岸44カ所調査」

津波が39の防潮堤越す 本県沿岸44カ所調査

岩手日報110606】本県沿岸を襲った東日本大震災の津波が、県内の主な防潮堤44カ所のうち39カ所で堤の高さを越え、陸地に流れ込んだことが県の調査で分かった。最大で約12メートル越流した地域もあった。防潮堤の多くは過去の大津波を踏まえ造られてきたが今回は従来の津波規模を大きく上回った。自然の猛威をハードで押さえ込むだけでなく、都市設計や防災教育など重層的対策が必要になることが、あらためて浮き彫りになった。

 調査したのは、洋野町の平内海岸から陸前高田市の長部漁港海岸までの防潮堤や海岸堤防44カ所。堤の高さと津波痕跡調査から算定した水位を比較した。

 水位が防潮堤を上回ったのは39カ所で、その差は約0・5~12メートル。最大差は岩泉町の茂師漁港海岸で、高さ約22メートルの津波が襲ったと推測され、約10メートルの防潮堤を12・1メートル越流した。このほか10メートル以上の差が出たのは田野畑村の嶋之越漁港海岸(11・9メートル)、大船渡市の門の浜漁港海岸(11・5メートル)。大槌町の吉里吉里漁港海岸も9・65メートルだった。

 平内海岸、川尻漁港海岸(洋野町)、種市漁港海岸・南側(同)、太田名部海岸(普代村)など北・中部の5カ所は堤の高さより水位のほうが低かった。

 防潮施設の多くは過去の災害を踏まえ造られた。1933(昭和8)年の昭和三陸大津波で最大5・2メートルを観測した陸前高田市の高田海岸の防潮堤は5・5メートル。今回はこれを上回る13・6メートルの波が襲うなど各地で想定を超す被害に見舞われた。

 また調査では、越流規模と被害規模が合致しない例があることも判明。宮古市の宮古港海岸藤原地区は堤高より水位は低かったが臨海部の市街地が被災。一方で、普代村の宇留部海岸は約8・5メートル越流したが陸の被害は比較的軽かった。

 規模を予見しがたい災害に対し防災設備は「絶対」でなく、実際の被害には市街地の配置など諸要因が作用することが分かった。

 県は防潮堤のほか避難ビルの建設、宅地のかさ上げや集落の高台移転などハード対策に加え▽防災通信ネットワーク▽避難経路の複数確保▽防災教育―などソフト施策も組み合わせ防災都市構築を進める考えだ。

 県河川課の冬川修河川海岸担当課長は「調査結果は、各自治体とともに地域に最適な防災都市像を探るヒントになる」としている。