菅首相 <浜岡原発>全面停止へ 政府が異例の要請

毎日新聞110506】菅直人首相は6日夜、首相官邸で緊急記者会見を行い、中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)について、現在稼働中の4、5号機を含むすべての原子炉の運転 停止を中部電力に要請したことを明らかにした。浜岡原発は東海地震の想定震源域に立地しており、首相は「東海地震に十分耐えられる中長期の対策を確実に実施することが必要だ。対策が完成するまでの間、すべての原子炉の運転を停止すべきだと考えた」と説明した。首相の指示を受け、海江田万里経済産業相は同 日、中電の水野明久社長に原子炉の停止を要請。水野社長は「要請内容について迅速に検討する」とのコメントを発表した。

浜岡原発。(手前から)5号機、4号機、3号機=静岡県御前崎市で2011年2月、本社ヘリから西本勝撮影
浜岡原発。(手前から)5号機、4号機、3号機=静岡県御前崎市で2011年2月、本社ヘリから西本勝撮影

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 首相は停止要請の理由として「国民の安全と安心を考えてのことだ」と説明した。具体的には文部科学省の地震調査研究推進本部が「30年以内にマグニ チュード8程度の東海地震が発生する可能性は87%」との分析をしていることを挙げ「浜岡原発で重大な事故が発生した場合には、日本社会全体に及ぶ甚大な影響を考慮した」と述べた。

 浜岡原発が停止した場合の中部電力管内の電力需給について、首相は「バランスに大きな支障が生じないよう政府としても最大限の対策を講じる」と説明。 「電力不足のリスクは地域住民をはじめとする全国民がより一層、省電力、省エネルギーの工夫をしていただくことで必ず乗り越えていけると確信している。協力をお願いします」と呼び掛けた。

 ただ、停止要請に法的根拠はなく、首相は「指示、命令という形は現在の法律制度では決まっていない」と説明。中電が要請に応じなかった場合の対応を問われた首相は「十分理解をいただけるよう(中電を)説得してまいりたい」と述べるにとどめた。

 首相の後に官邸で記者会見した海江田経産相は「計画停電の事態には至らないと思っている」と述べた。

 浜岡原発の1、2号機は営業運転を終了し、廃炉の措置を取っている。

 中部電力は、稼働中の4、5号機に加え、現在定期検査中の3号機についても運転再開は困難と判断しており、同社にとって唯一の原発である浜岡原発は全面 停止に追い込まれることになった。4、5号機の具体的な停止時期については「検討中」(幹部)としているが、電力需要が高まる7月以前の停止となれば、電力使用制限などが必要になることも想定される。【田中成之、丸山進】

 ◇浜岡原発

 中部電力(本店・名古屋市)が静岡県御前崎市(旧浜岡町)に建設した、同社唯一の原発。5基の原子炉からなる。5基とも福島第1原発と同じ「沸騰水型」 (5号機は改良型)。1号機は76年3月、2号機は78年11月に運転を開始したが、多額の耐震補強費が必要になったことから08年に廃炉を決め、09年1月末に運転を停止、廃炉手続きを進めている。3号機は東日本大震災の発生時、定期検査で停止していたが、中電は7月に運転再開する意向を示していた。 4、5号機は運転中。

 

浜岡原子力発電所の津波に対する防護対策の確実な実施とそれまでの間の運転の停止について

経済産業省110506】原子力安全・保安院(以下「当院」という。)は、福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、平成23年3月30日に、中部電力株式会社(以下「中部電力」とい う。)各電気事業者等に対して、津波により3つの機能(全交流電源、海水冷却機能、使用済み燃料貯蔵プール冷却機能)を全て喪失したとしても、炉心損傷等 を防止できるよう、緊急安全対策に直ちに取り組むとともに、これらの実施状況を早急に報告するよう指示しました。
当該指示を受け、中部電力浜岡原子力発電所において保安規定や手順書を整備、必要な設備を導入、さらに実地の訓練により確認し、原子力安全・保安院が立入検査により適切に行われていることを確認しました。その結果、適切に措置されているものと評価しました。
しかしながら、同発電所については、想定東海地震の震源域に近接して立地しており、文部科学省の地震調査研究推進本部の評価によれば、30年以内にマグニ チュード8程度の想定東海地震が発生する可能性が87%と極めて切迫しているとされており、大規模な津波の襲来の可能性が高いことが懸念されることから、 (別紙)のとおり、中部電力の報告にある津波に対する防護対策及び海水ポンプの予備品の確保と空冷式非常用発電機等の設置についても確実に講ずることを求 めるとともに、これらの対策が完了し、当院の評価・確認を得るまでの間は、同発電所の全ての号機について、運転を停止するよう求めました。