防潮堤「高ければよいのか?」各地で議論
【朝日新聞111021】県が14地区に整備する防潮堤の高さを20日に発表し、三陸沿岸の防潮堤の高さが出そろった。防潮堤は本当に高い方が良いのか――。防災とまちづくりの両立を目指すなか、各地で議論が広がっている。
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■「命を守るのは、防潮堤か?避難か?」宮古
「これ以上、海が見えない三陸海岸にしてほしくない」。宮古市が7日に開いた復興計画の説明会。宮古商工会議所副会頭の寺崎勉・宮古ヤクルト販売社長(57)がかさ上げ反対の声を上げた。
同社の社員は震災時、同市田老地区の国道で津波にさらわれた。高さ10メートルの防潮堤の陸側を並行して走る国道からは海がまったく見えず、犠牲になった。
田老地区でも賛否が分かれる。商店経営の田中和七(わ・しち)さん(57)は「壊れない防潮堤なら賛成だ」。戦前に着工した陸側の防潮堤も「先祖が造ったまま残し、メモリアル的に使いたい」と話す。一方、海側の防潮堤だけに守られていた地区で家を流された主婦(59)は「防潮堤に何十億円もかけるより高台造成にお金を回してほしい。市も非居住区域にすると発表しているのにおかしい」。
観光面への影響も懸念が出ている。中心商店街の自営業男性は「被災者のことを考えると言いにくいが、やみくもに高くすると弊害は大きい」と話す。
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■「すり鉢に暮らすのか」大槌
大槌町でも住民が悩んでいる。住民主体で復興計画づくりを進める町の地域復興協議会。町では自宅付近から逃げずに亡くなった人が多く、男性が「堤防は何メートルでいいというものはない。安心感が避難につながらなかった」と話すと、別の男性も「防潮堤が視界をさえぎった」と主張した。
一方、防潮堤を14・5メートルにすれば浸水がなくなると想定される地区の男性(39)は「子の将来や70歳代の両親を考えて移転しようか悩んでいたが、もうしばらく考えてみたい」。
住民からは「すり鉢に入って生活するような圧迫感がある。百年に1回の災害に耐えるといっても、そもそもコンクリートは何年持つのか」との声もある。復興のイメージに「海の見える、つい散歩したくなる街」と掲げた碇川豊町長は「悩ましい問題だが、住民の知恵を待ちたい」と話す。
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■「観光地にふさわしい?」陸前高田
市街地が壊滅した陸前高田市。市の復興計画案では名勝・高田松原と市街地を遮るように防潮堤が整備される。
「これほどの防潮堤は観光地にふさわしいだろうか」。18日の市民説明会では防潮堤の高さや位置を疑問視する声も上がった。市側は「市街地を守るには一定の高さが必要。景観にも配慮する」と防潮堤の斜面への植樹を検討するとした。
計画では、防潮堤の斜面は50メートル近く市街地にせり出す。漁師から「海岸へ行き来する際、防潮堤をどうやって通るのか」との質問も。市は津波の際に開閉作業が必要な門扉を原則として設けない方針だ。「斜面を車両でも上り下りできるようにしたい」