東日本大震災復興をめぐるせめぎあい
2011年8月20日
本多昭一(新建築家技術者集団・復興支援会議議長)
3・11発災から半年。被災地の復旧・復興が遅々として進まない事態に怒りの声が高まっている。しかし注意しなければならない。「遅い」のは政府が単に怠惰だからではない。この大震災をチャンスとみて財界が進める非人間的蛮行こそが復興を妨害していることを暴露・批判し、被災者本位の復興を進めなければならない。
復興基本法の問題点
復興基本法は6月20日に参院で可決し、成立した。その成立までのいきさつに事態の本質が滲み出してる。
4~5月段階では政府の案に対して、自公案が提出され、お互いに相手の案を非難していた。ところが、ある晩「談合」があって、急に一本化されて、衆院特別委でまとまってしまった。談合が行われたのは菅内閣不信任案上程の前夜だったというから呆れる。つまり「政局」的な争いは派手にやりながら、財界が要求する法案は協力してまとめたわけだ。財界の要求とは何か。成立した基本法に明らかである。
その第1条(目的)には「・・・復興についての基本理念を定め、並びに現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現に向けて・・・基本方針を定めること等により、東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図ることを目的とする。」とあり、彼らの真の目的は「活力ある日本の再生」であることが明記されている。
さらに第2条(基本理念)にも、「・・・単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策及び一人一人の人間が災害を乗り越えて豊かな人生を送ることができるようにすることを旨として行われる復興のための施策の推進により、新たな地域社会の構築がなされるとともに、二十一世紀半ばにおける日本のあるべき姿を目指して行われるべきこと。」とあり、重ねて「活力ある日本の再生」を謳うとともに、「新たな地域社会の構築」という言葉で、彼らが狙っている道州制や特区制度、農漁業集約化などの足がかりを仕掛けている。(その具体化は、構想会議提言や復興基本方針で進められている。あからさまな本音は「TPP早期参加」等を掲げる経団連アピールに出ている。また、最近全国で自民党地方議員が先頭に立って「教科書問題」を起こしているのも、やはり震災復興をチャンスと見た「活力ある日本」運動である。)
「住民主体」の足がかり
財界が、政府・民主党と野党(自公)に「談合」させて作らせた問題だらけの復興基本法や構想会議提言だが、それらの中にもなぜか「住民主体」の原則は明記されている。たとえば提言2には「地域・コミュニティ主体の復興を基本とする。」とあり、基本法(2条5ハ)には「地域社会の絆(きずな)の維持及び強化を図り」とある。これは決して彼らの本音ではないが、阪神淡路大震災以降の復興まちづくり運動が勝ち取った基本理念であり、それを外しては世論が許さないのである。
したがって彼らは、この「住民主体の復興」という基本理念を有名無実にしようとしているが、逆に被災者・住民はこれを武器として闘うことが出来るのである。
統一組織の運動と個別コミュニティの運動
財界と民自公勢力の狙い(震災をチャンスに新自由主義的日本再生)を阻止し、被災者・住民主体の復旧・復興を進めるためには、被災者を含む住民、労組、文化団体、平和団体等の統一した組織的運動が必要である。そしてそれは、3/24「ふくしま復興協働センター」、5/29「みやぎ県民センター」、6/9「 復興岩手県民会議」という形で結成され、活動を広げている。
それと同時に必要なのは、個々の地域・コミュニティの復興まちづくり運動である。これは「○○地区住民協議会」などの形で、いままさに各地で誕生しつつある。私たち「新建」は、それらの住民主体の各運動に専門家を派遣して協働しつつある。(当面は手弁当であるが、早急に公費補助を獲得しなければ長続きできない。)
地域(住民)が主体になるためには、生活がある程度確立・安定する(不安がない)必要がある。これがまだ出来ていない。これが当面の課題である。そのためにも、個々の住民が抱えている深刻な悩みに対応する「相談活動」が重要である。