原子力防災重点地域の拡大案 女川原発、揺れる再稼働
【河北新報111028】国の原子力安全委員会事務局が作業部会に示した原子力防災の重点地域見直し案が、東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)の再稼働の行方に影響を与えそうだ。原案通り決定されれば、重点地域は原発の半径8~10キロ圏から約30キロ圏に拡大し、新たに5市町が区域内に入る。関係自治体には「単純には運転再開に同意できない」との意見もあり、再稼働のハードルが高くなるのは必至だ。
見直し案の是非は、11月1日に開かれる原子力安全委の作業部会で決まる見通し。女川原発の30キロ圏には、立地2市町に加え、東松島、登米両市と、宮城県南三陸、美里、涌谷の3町が加わることになる。
このうち涌谷町の安部周治町長は「稲作地帯でもあり、原発事故への懸念は大きい」と強調。早期の運転再開については「事故時の町内の避難路確保などができていない状態では認めるべきではない」との認識を示す。
美里町の佐々木功悦町長は「福島の事故の被害の広がりをみると、重点地域は広げるべきだ」と見直し案に賛意を示す。その上で運転再開の協議の在り方に触れ「立地自治体だけが関わってきた状況を改め、周辺市町村が意見を述べる場も必要」と注文を付ける。
女川原発は全3基が停止しており、現在は全てが定期検査中。震災では一部設備に浸水被害などがあった。東北電は運転再開に向けて安全対策工事や地震の影響の解析作業を続けている。
東北電は見直し案の影響について「具体的にコメントできる段階ではないが、再稼働に地元の理解が重要という考えは変わらない」と説明。新たに対象となる市町を含め「各自治体の要望を聞いていきたい」としている。
<自治体の防災計画 事故想定が不可欠>
原子力防災の重点地域が約30キロ圏に拡大した場合、女川原発周辺で新たに対象区域となる自治体は原発事故を想定した防災計画策定が必要となるなど、さまざまな対応が求められることになる。
防災計画の策定に関しては、福島原発事故の影響の大きさを踏まえ、いずれの市町も前向き。登米市は「国や県と協議し策定したい」と説明する。東松島市、南三陸町も既存の防災計画の見直しを検討する方針だ。
対象市町は放射線測定機器や防護服の準備などのための予算確保も必要となる。広範囲に及ぶ地域で、原子力防災訓練をどう実施するかなども課題になる。
各市町の指針となる県地域防災計画の修正も必至で、県原子力安全対策課は「関係自治体との調整が欠かせず、修正作業を終えるのは来年度以降になる」と言う。
一方、東北電力は「正式に決まった場合は事業者としての防災業務計画を見直し、自治体との連係も深めたい」としている。
[原子力防災の見直し案] 原子力安全委員会事務局が20日に提示。あらかじめ防災対策を重点的に実施する地域として、これまで「EPZ」の呼称で示した原発の半径8~10キロ圏を約30キロ圏まで拡大し、緊急防護措置区域(UPZ)とする。ほかに5キロ圏を直ちに避難する予防的防護措置区域(PAZ)、50キロ圏を安定ヨウ素剤を配備するなど放射性ヨウ素対策区域(PPZ)に設定した。
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