鉄筋ビル相次ぎ倒壊 津波と浮力複合作用か 宮城・女川

鉄筋ビル相次ぎ倒壊 津波と浮力複合作用か 宮城・女川

河北新報110522】東日本大震災の大津波により約7割の建物が全壊した宮城県女川町で、災害に強いとされる鉄筋コンクリートのビルが基礎部分から根こそぎ倒れる被害が相次いだ。津波工学の専門家によると、リアス式海岸の湾奥に集中した津波で、押し波や引き波といった横方向の圧力だけではなく、縦方向の浮力が作用して倒壊に つながった可能性があるという。

津波で基礎部分のくいごと横倒しになった石巻署女川交番=12日
津波で基礎部分のくいごと横倒しになった石巻署女川交番=12日

◎専門家が原因分析「構造基準見直し必要」
 首藤伸夫東北大名誉教授(津波工学)によると、鉄筋コンクリートの建造物が津波で倒壊したのは、1946年、アリューシャン列島ウニマック島の灯台が高さ30メートルの津波で流された1例だけ。東日本大震災の被災地の中でも、女川町はとりわけ鉄筋コンクリートの建物が倒れる事例が集中しているという。
 現地調査した越村俊一東北大災害制御研究センター准教授(津波工学)によると、2~4階建て鉄筋コンクリートの5棟と、4階建てのビル1棟が倒れているのが確認された。大半が商業ビルや水産会社の冷凍工場など民間の建物だが、石巻署女川交番も倒れた。

倒壊した建物は、地中にあった分厚い基礎部分が露出。鉄筋コンクリート2階の女川交番は、長さ約1メートル、直径数十センチのくいが引き抜かれた状態で横倒しになった。
 横長で海岸に面するように立っていた鉄筋コンクリート3階の女川共同ビルは、建物が真っ二つに破壊され、一方は上下逆さまに転倒し、もう一方は西に約150メートル離れた場所まで流された。解体されたこのビルを除くと、3棟が西寄り、2棟が北寄りの方向へ倒れていた。
  東北大や東大、京都大、港湾空港技術研究所など30以上の機関の研究者で構成する東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによると、女川港では18.4 メートルの津波を観測。越村准教授の調査では、遡上(そじょう)高は平均で約20メートルに達した。目撃証言によると、マリンパル女川や町役場などを除き、中心部の建物はほとんど屋上まで水没した。
 JR女川駅近くにある町生涯教育センターに避難した町の女性職員(50)は「津波で建物は見えなくなり、ごう音を上げて引いていった。波は渦巻いていて大きな建物も元の場所になかった」と振り返る。
 町商工会などによると、倒壊が確認された鉄筋コンクリート建造物は、確認できる分だけで古くは約50年前、新しくても約20年前に建てられたといい、埋め立てで造成された市街地に立っていた。
  越村准教授は「津波で大きな浮力が働き、押し波や引き波で倒されたのではないか。地震の液状化によって基礎が支持力を失った可能性もある」と指摘。「鉄筋 だから、新しいからという理由で安全だとは言い切れない。避難に利用するビルの構造基準の見直しが必要だ」と強調している。
(浅井哲朗)

2011年05月22日日曜日