東日本大震災 東電の津波評価/放置された背景を検証せよ

河北新報111028】福島第1原発事故の直接の原因となったとされる巨大津波。東京電力は「想定外」の規模だったことを繰り返し強調してきた。だが、その主張はもはや通用しないだろう。
 想定した5.7メートルを超える津波が押し寄せる確率を東京電力が「50年に最大約10%」と評価、炉心溶融が起きる可能性がある10メートルを超す津波発生も「同1%弱」と算出していた。
 原子力の世界ではかなり高い確率だ。この津波評価をまとめた論文は、2006年に米国で開かれた国際会議で発表されたことも明らかになった。
 しかし、評価結果は社内で問題にされず、対応策が検討されることもなかった。安全規制を担当する経済産業省原子力安全・保安院は、原発事故が起きるまで、論文が存在することさえ知らなかったという。
 本来なら組織を挙げて対策を講じてしかるべき東電が、結果を放置した背景には何があったのか。保安院はなぜ、これほど重要な情報を把握できなかったのか。事故の原因を解明する上でも、徹底的に検証していかなくてはならない。
 巨大津波発生の可能性は「確率論的安全評価」と呼ばれる手法で試算された。津波発生源となる断層の設定や海底地形の誤差など、さまざまな「不確定性」を考慮し、リスク計算を行ったとされる。
 想定を超える津波発生(50年に10%)、炉心溶融の可能性(同1%)とも確かに高い。特に炉心溶融の発生頻度は「10万年に1回以下」とする国際原子力機関(IAEA)の基本安全原則をはるかに上回る。
 これほどの数値が出ているにもかかわらず、対応策さえ検討しなかったことを、東電は「試行的な解析にすぎない」(社内事故調査委員会の報告書案)として正当化しようとしている。
 しかし、社内からも結果を無視し続けたことに疑問の声が上がっている。「非常用電源や電源盤への浸水を防ぐ応急対策は、半年もあればできた」との指摘があるという。
 例えば非常用発電機をタービン建屋の地下から密閉性の高い原子炉建屋内に移し、むき出しの取水ポンプを堅固な建物の中に収めるだけでも、最悪の事態は避けられたはずだ。
 原発で最も重視しなくてはいけない安全性の確保よりも、原発の稼働率を上げるための保守・点検のテクニックに一層力を注ぐ企業文化が背景となったとみる専門家もいる。
 一方、保安院は「東電から特に報告がなかった」と評価結果を把握できなかった理由を説明する。しかし、国際会議で発表された公開情報だ。原発の規制機関として、知らなかったでは到底済まされない。
 原発の安全性については、どれほど留意してもし過ぎることがないことは、いわば常識だ。それがおろそかにされていたことに、驚きを禁じ得ない。
 業界全体の体質とは思いたくないが、他の原発ではどうなのか気になる。今回の事態の検証を急ぎ、ストレステスト(耐性評価)などに生かしてほしい。