どうなる地域再建-仙台・集団移転をめぐって(上)荒浜の選択/生活見据え住民三様
【河北新報120131】東日本大震災で津波被害を受けた沿岸部1214ヘクタールが災害危険区域に指定され、最大2000世帯が移転を迫られる仙台市。まちづくりの組織が結成され、集団移転に向けた準備が進む一方、移転先が決まらない地域や現地残留を望む住民もいる。地域の再建はどうなるのか。地元の動きを追った。(報道部・亀山貴裕、佐々木絵里香)
<自分たちの手で>
「移転して良かったと思える街を自分たちの手でつくっていきたい」
仙台市若林区のサンピア仙台で29日開かれた「荒浜移転まちづくり協議会」の設立総会。200世帯余りが参加し、仙台東部道路西側の荒井地区への集団移転を目指す新団体の代表に就いた末永薫さん(44)は総会後、決意を語った。
市内で最初にまちづくり協議会ができた同区荒浜地区(約750世帯)は、住宅の大半を占める県道塩釜亘理線の東側一帯が危険区域。歴史ある集落だが、犠牲者186人という状況に住民の多くは移転の意志を固める。
海が好きで約20年前に移住した末永さんもその一人。昨年6月、住民の生活再建を考える「荒浜復興まちづくり実行委員会」に入り、「移転分科会」ができるとメンバーの中心の一人になった。
「避難所生活で、役所はこちらが動かないと何もしないと分かった。多くの住民が関わる形で移転を進めたい」と語る。
<「線引き再考を」>
ただ、荒浜でも移転費用への不安や愛着の強さから、現地再建を望む住民もいる。もう一つの分科会「現地再建分科会」の住民だ。
分科会長の二瓶寿浩さん(44)は、震災直前に建てた2世帯住宅を津波で失い、ローンだけが残った。「勝手に線引きして住民は移れ、というやり方は理解できない。津波の危険は分かるが、現行の支援制度では移転は困難だ」と二瓶さん。現地再建を可能にする線引きの見直しを求める。
ただ、市は否定的だ。今月16日の分科会の会合に出席した市幹部は「荒浜は予想される津波の浸水深が2メートル超。安全を守る責任から、市として危険区域の再検討はしない」と要望をはねつけた。
それでも、「盛り土で高台を造る選択肢もあるはず」と現地派の気持ちは収まらない。「危険区域指定は居住権の侵害だ」と行政訴訟もやむなしとの声さえ上がる。
一方、農家を中心に「第三の道」を模索する動きも。当初、移転候補地になかった石場地区の農地への宅地造成で集団移転先の確保を目指す。住所は荒浜だが、盛り土する県道の西側にある。
代表格の佐藤長良さん(75)は「農地に近い仙台東部道路の東側でなければ農業が続けられない。荒井では地価も高過ぎる」と説明する。
佐藤さんら有志は既に地権者の理解を得て作った計画図を市に提出。実施中の住民意向調査で移転検討地区にも挙げた市の幹部も「前向きに捉えている」とし、移転実現の可能性が出てきた。
震災さえなければ、迫られなかった住民の選択。今、荒浜の住宅跡地に黄色い旗とメッセージが書かれた看板が立つ。
「荒浜の再生を心から願う。移転を希望するものも、住み続けることを希望するものもふるさと荒浜が大好きです」