復興いわて三陸-漁業アンケートから(1)経営基盤/再編より復旧最優先
【河北新報120117】東日本大震災の津波により、岩手の三陸沿岸では多くの漁船や養殖施設、魚市場などが流失し、漁業を基本とする沿岸地域の生活基盤は深く傷ついた。その再生には、水産物の水揚げ高の回復はもちろん、加工場などの再建や漁協の体質強化といった戦略的な取り組みが欠かせない。震災から10カ月。全漁協を対象に実施したアンケートを基に、岩手の水産業の復興に向けた課題を探る。(5回続き)
<11億円債務超過>
岩手県には24もの漁協がある。その一つ、東日本大震災の津波で壊滅的被害を受けた大槌町漁協が13日、約11億円の債務
超過に陥り、現組合を「清算」し新組合で事業継続する方針を決めた。
「年に約1億円ずつ借金を返してきた。東日本大震災で計画通りにいかなくなった」。漁協幹部は悔しさをにじませた。
同漁協は約10年前から累積債務を抱え、2010年度から10年間の経営改善計画に着手したばかりだった。だが、震災で漁協事務所や魚市場などが流され、財務内容はさらに悪化。県や県漁連、メーンバンクの県信用漁協連合会は「返済の見込みはない」と判断し、組合の再出発を求めた。
「選択の余地はなかった。これ以上、今の組合に融資してもどうにもならない状態だった」と県信漁連の幹部。債務を帳消しにし、事業を引き継ぐ新組合が国や県の復興事業の受け皿として再生する道筋を思い描く。
<震災で収入激減>
県漁連は経営基盤強化を目指し、00年度から38あった漁協の段階的な合併に取り組んできた。だが、地域事情や漁協間の財務格差もあり、09年に24漁協になって以降、変化はない。
再編が遅れる中で、震災が各漁協を襲った。河北新報社が行ったアンケートでは、10年度決算で、24漁協のうち、被害の少ない戸類家(洋野町)を除く23漁協で計約75億円の特別損失を計上。利益や内部留保で処理できず、次年度に繰り越した漁協もある。
被害の大きい南部の漁協職員は「過去に累積赤字を苦労して黒字化したことはあったが、今回は収入が激減した。施設も復旧しなければならず、苦しい」と明かす。
各漁協は本年度、経営効率化や不採算部門の解消を目指す今後10年間の事業計画を策定。大槌町漁協を除く23漁協は「漁協経営が成り立つ見通し」(県信漁連)とされる。
<補助制度充実へ>
岩手では、秋サケに代表される定置網などの沿岸漁業とワカメやコンブ、カキ、ホタテといった養殖業の生産額(加工含む)が全体の8割を占め、経営は個人主体の小規模が中心。定置網や養殖棚、荷さばき場、製氷施設の整備など、漁協が水産業の振興に一定の役割を果たしてきた。
多くの漁業関係者が将来的な漁協合併の必要性を認めながら「復旧が先」との空気が支配的だ。県は復興計画で「漁協を核とした水産業の再生」を掲げ、共同利用の船や養殖施設を一括整備する漁協に対し、国や市町村とともに独自の高率補助制度をつくるなど、漁協の手厚い保護を目指す。
「担い手不足など構造的な問題はあるが、まずは震災前に戻すのが大切」と県団体指導課の大友宏司総括課長。「合併といった『器づくり』に時間をかける場合ではない」と話す。