【河北新聞110608】宮城県内で、東日本大震災の被災者向け仮設住宅約2万3000戸の建設をめぐり、地元業者がいら立ちを募らせている。県発注分は大手メーカーが中心で地 元の受注はごく一部にすぎず、被災市町も発注を県に委ねるケースが多いからだ。「地域を顧みていない」と不満を示す地元業者に対し、県や被災市町は「ス ピード重視」「手が回らない」と説明。地元産業の活性化と避難者の早期入居のはざまで、あつれきが生じている。
「現状は職人の生活再建、雇用確保につながっていない」。建設業の職人でつくる宮城県建設職組合連合会の山崎忠夫会長らは6日、気仙沼市役所を訪れ、菅原茂市長に仮設住宅の県内業者への発注を要望した。
震災後、連合会は県内の住宅会社や建築士会と連携し、木造の仮設住宅を受注できる態勢を整えてきた。被災自治体に働き掛けを続けてきたが、反応は鈍い。
仮設住宅の発注は当初、県が一元管理していた。業者選定は資材調達と一括で社団法人プレハブ建築協会(東京)に委任。地元業者の元請け受注はごく一部にとどまった。
県は4月、発注の一部を被災市町が独自にできるよう方針を転換した。全国の建設関係団体などでつくる「すまいづくりまちづくりセンター連合会」(東京)を通して地元を含む77社のリストを作り、登録業者に限り受発注を認めた。
現実に、リストに載る77社に市町が発注するケースはほとんどない。
リスト入りした仙台市内のある建設会社は100人以上の作業員に声を掛けて受注に備えたが、空振りが続いた。発注した資材はぎりぎりのタイミングでキャン セルしたという。社長は「地元業者だとメンテナンスも行き届くのに、今回はただ振り回されただけだ」と憤りを隠さない。
今後、応急修理、復興住宅などの需要が本格化するが、地元業者の表情はさえない。別の建設業者は「県内は大手住宅メーカーなどの草刈り場になる。このままでは地元の雇用につながるかどうか」と焦りを口にする。
地域経済を支えてきた自負があるだけに、地元業界の不満は募る。連合会の山崎会長は「地元発注をすれば、仕事が地域の末端まで行き渡る。地元活用をもっと考えてほしい」と訴える。
<県強調「スピード重視」>
「プレハブ建築協会に一括発注したことで、5月末までに1万戸という国土交通省の目標を達成できた」。村井嘉浩知事は7日、県議会本会議の一般質問で、仮設住宅について「スピード重視」の成果を強調した。
県は、77社のリスト作成と提供をもって地元業者への発注を被災市町に委ねた形だが、自治体側にその余裕はなく、多くは県に任せているのが現状だ。
菅原茂気仙沼市長は「県発注分の用地を探すので手いっぱいの状態。市としては土地を探す作業に専念したい」と、市による独自発注に否定的な考えを示す。
ある自治体の担当者は「担当課も仮設住宅の建設だけが業務ではない。多少の弊害があっても、発注は県にやってもらおうというのが本音だ」と打ち明ける。
業界の不満の高まりを受け、地元業者を活用した仮設住宅建設に乗り出す自治体も出てきた。南三陸町は約50戸を地元業者に発注する方針だ。
佐藤仁町長は「県に任せておけば、確かに楽だ。それでも地元に仕事がないのであれば、やらざるを得ないという政治判断だ」と説明する。
地元業者の活用は7日の県議会でも議論の的になった。村井知事は「復興住宅の建設では市町と連携しながら、地元業者の積極的活用に配慮していきたい」と約束し、理解を求めた。