福島第1原発事故 避難準備区域解除へ 帰宅できる日いつ
◇除染など具体策まだ
東京電力福島第1原発から半径20~30キロ圏の「緊急時避難準備区域」の指定が9月にも解除されることが9日決まった。だが、除染やインフラ整備の状況には地域差があり、政府の原子力災害対策本部も「住民帰還の時期は市町村ごとに大きく異なる」と認める。住民からは「我が家にはいつ帰れるのか」「安全は確保されるのか」といった声が上がり、安心して戻るための課題は山積している。
「子供の健康に本当に影響がないのか。戻れるなら戻りたいが、安心できる材料がほしい」。福島県広野町から同県石川町に一家で避難した自営業、渡辺政則さん(46)の不安は消えない。広野町にとどまる母ユワさん(74)も「学校や通学路の除染を進めないと、『戻ってこい』とは言えない」と話した。
独自の除染計画を策定し、8、9月を除染強化月間に設定した南相馬市は、今週から学校や博物館などの公共施設の本格的な除染を開始し、校庭の表土を削ったり、高圧洗浄機を使って校舎の壁を水で洗浄するなどしている。中学3年の長女を福島市に避難させている会社役員の男性(50)は「学校の除染は始まったばかり。高校受験も控えており、すぐに戻ってこさせられない」とため息をつく。
医療にも課題がある。南相馬市立総合病院では震災前に12人いた医師が5人に減った。住民の帰還には医療サービスの充実が必要だが、市の担当者は「医者の数を震災前に戻すのは相当難しい。国が何らかの手だてをしてほしい」と訴える。
広野町の山田基星町長は「除染の方法など国の具体的な支援の中身が出てきて、安全や安心が確保できないと、町民に『帰宅できますよ』とは言えない。解除されることで支援や補償がおろそかになっても困る」と国に注文した。一方、原発の半径3キロ圏内の住民の一時帰宅も認められ、今月中の開始を目指すことになった。
原発から2キロ弱の大熊町に自宅がある多田登喜子さん(75)は「お盆には間に合わないけど位牌(いはい)を持ってきたい。孫もアルバムを見たがっている」と一時帰宅を待ち望む。その一方で「放射線に汚染されて持ち出しができないものもあるかも」と不安ものぞかせる。
体調を崩して入院中の木幡昭重さん(73)は「家だけでなく、お墓に寄ることも認めてほしい。少しの時間でもよいから手を合わせたい」と話した。