宅地復旧策、内陸は手薄 補助要件限定的、測量遅れ
【河北新報120110】東日本大震災で地盤沈下や地割れが起きた造成宅地の復旧について、今なお多くの住民が悩みを抱える。国は「公共事業」として補助金を出す仕組みを新設し、独自策を展開する市町村もあるが、救済されない宅地も少なくないとみられる。支援の拡充に加え、きめ細かく相談に応じる態勢が求められている。
宮城県富谷町とちの木。会社員佐藤さくらさん(58)の自宅は、西側の斜面下にある公園に向かって傾く。床にペンを置くと、ひとりでに転がっていく。
「気持ち悪くなる。もう住めない」と佐藤さん。昨年3月に自宅を離れ、現在は家族3人で仙台市泉区のアパートで暮らす。
調査の結果、宅地が約10センチ沈み、建物基礎部分の鉄筋に亀裂が入っている可能性があるという。
国の補助事業は「被災家屋が5戸以上」など要件が限定されている。佐藤さん方の周辺に大きな被害は見当たらず、対象から漏れる恐れがある。だが、補修をすべて自前で手掛けると、支出は1000万円近くになるという。
富谷町は、独自の住宅修繕支援金制度を創設したが、助成額は最大10万円にとどまる。「新たな支援策は現段階はない」と同町。「新たなローンを抱えるのは厳しい」と佐藤さんは頭を抱える。
仙台市泉区加茂の女性(77)宅は、宅地斜面が崩れ家屋が傾く。宅地や建物の修繕費は2000万円近く掛かると見込まれる。
女性宅には避難勧告も出ている。女性は「他に行く所がない。不安で仕方ない」と漏らす。
女性宅周辺は、国の公共事業の「候補地」として仙台市が測量に入る予定だが、「国から測量の手続きが示されない。工事着手がいつになるか分からない」(市開発調整課)と見通しが立たない。
仙台市は、津波被害を除く被災宅地約4000カ所の8割が国の事業対象になると見積もる。残り2割について、助成額上限1000万円の独自の支援対策を講じる。斜面の擁壁の復旧工事が中心で、家屋下の地盤補強や建物のジャッキアップなどは対象とならない。
そのため先月17日に泉区役所で開かれた住民説明会では「不十分な救済策だ」と、不満の声が相次いだ。
市の担当者は「助成制度を拡充するには財源が足らない。津波被災地の復旧だけでも支出は膨大だ。金融機関の無利子の融資制度なども活用してほしい」と話す。
県の対応は市町村任せだ。「市町村には、復興事業に使える基金や交付金が、国や県からなされている。状況に応じた支援策を促したい」(県建築住宅課)。
被災宅地の調査を行っているNPO法人リビングコンサルジェ(泉区)の江頭昌広代表理事は「宅地の支援策をまったく知らない被災者も多い。行政はきめ細かい情報発信が必要だ。県内どこでも同じように救済される仕組みも整えるべきだ」と指摘している。