介護施設は満杯 仮設で世話困難、家族の心折れ

産経新聞110817】東日本大震災で大きな被害を受けた岩手、宮城両県の被災地で、介護保険施設の定員オーバーが続いている。仮設住宅での高齢者の介護が困難になったり、家族の被災で引き取り手がいなくなるなどの理由で施設への入所者が増加しているためだ。こうした事態を受けて厚生労働省は仮設の特別養護老人ホームや老人保健施設の建設を容認したが、定員オーバー問題に歯止めがかかるかは不透明だ。(渡辺陽子)

 厚労省によると、応急仮設施設は平屋建てで、耐火基準をクリアしていることが条件。スプリンクラーの設置も義務づけるが、入所者に差し障りのない範囲で廊下の幅などの基準は緩和した。それでも、社会的弱者の置かれた現実は厳しい。

 宮城県多賀城市の特別養護老人ホーム「多賀城苑」では震災直後、別の施設などから一時的に利用者が避難。短期・長期入所の定員70人に対し、ピーク時には85人に達した。内陸施設への転所や家族の引き取りなどで人数は一時的に減ったものの、家族の被災や心労で老老介護が困難になるなど、引き取り手がいなくなる事態が相次ぎ、いまでも約80人が入所している。1人部屋を2人で、4人部屋を5人で分け合っている。

 デイサービスや短期入所の利用者らが長期入所に切り替えるケースも。岩手県陸前高田市の医療法人「勝久会」では震災で利用者20人以上が死亡。仮設入居や自宅損壊などで在宅介護の需要は半分以下にまで激減したが、逆に長期入所移行者が約40人になった。

介護を続けてきた家族が震災のショックで心が折れてしまったり、経済的に在宅サービスが受けられなくなった利用者も多いとみられ、同会は「在宅を希望する入所者の心の問題も無視できない」と指摘する。

 厚労省によると、利用者負担の「免除証明書」により、入所料や食費などが免除されるのは来年2月まで。受け入れ側も現在は災害救助法で定員オーバーが認められているが、ある施設の担当者は「定員に戻せといわれたときに、入所者の行き場が確保できるのか」と不安そうに話す。