仮設住民の“実家”に/「亘理いちごっこ」代表・馬場照子
「お待たせ。仮設住宅は寒くて大変でしょう。たくさん食べていってちょうだいね」
1月上旬、亘理町中心部にあるプレハブ店舗のカフェレストラン。店内の座敷には家庭的な雰囲気が漂う。店を運営するNPO法人「亘理いちごっこ」代表の馬場照子さん(50)は、仮設住宅から来た女性客を気遣いながら、ご飯とみそ汁をテーブルに並べた。
プレートにサケの焼き浸し、きんぴらごぼう、煮豆、サラダなどが盛られた。デザートはヨーグルト。罹災(りさい)証明書を持参した人に、昨年11月末まで食事を無料で提供していた。一般
の人も500円で利用できる。1日に30~40人が来店する。
震災から半年ほどたったころ、被災者から「いつまでも無料だと足を運びにくい。少しは払いたい」といった声が出始めた。仮設店舗で自立を目指す飲食店の営業を妨げてはいけないとの思いもあり、被災者には12月以降、200円で食事してもらうことにした。
震災直後に炊き出し支援を手伝った経験から、カフェ設立を思い付いた。避難所の食事はパンやおにぎり。主婦の目に映ったのは、被災者の栄養の偏りだった。「支援物資は必要とする人になかなか届かない。支援する側、受ける側の顔が互いに見えるようにしたかった」と振り返る。
宮城学院女子大食品栄養学科の学生でもある馬場さんは昨年5月、町の集会所を借りてカフェを開店させ、約1カ月半、食事を振る舞った。7月下旬に現在のプレハブ店舗に移転し、活動を続ける。新年度には本格的な店舗建設を計画している。
町に来るボランティアも食事に店を訪れ、交流を深めた。ボランティアの口コミなどで、全国から支援物資が集まるようになった。「単なる物資配布では心を通わせられない」と、買い物形式を取り入れ、被災者に日用品などを選んでもらうイベントも実現させた。
震災前から、住民のコミュニケーションの場が必要と感じていた。いちごっこの活動も一方通行ではなく、被災住民の気持ちに寄り添った支援を目指す。「大きすぎる犠牲だったけれど、町外の人も加わりながら、地域住民が結束するチャンスに変えていかなければ」と願う。
被災者が仮設住宅に引っ越したころ、町内には「いちごっこの支援はもう不要ではないか」という意見もあったという。「でもね、実家のように過ごせる場所が町にあってもいいじゃない」。子どもの帰りを待っていた母親のように、馬場さんは顔をほころばせた。(角田支局・高田瑞輝)
<ひとこと/友人誘い、食事に行きたい>
避難所にいたころにカフェの存在を知りましたが、実際に利用したのは仮設住宅に移った後でした。仮設住宅の台所は狭く、食材を保管する場所も足りないので困っています。なかなか料理する気持ちになれません。この店を訪れれば、家庭的な懐かしい味を楽しめます。これからも友人たちを誘って、食事に行きたいと思います。(亘理町東郷・主婦鈴木フジ子さん)
<メモ>カフェは火、木、土、日曜の午前11時半~午後5時に開店。日替わりメニューとご飯、汁物、デザートのセットのほか、コーヒーまたは紅茶とケーキのセットなどもある。亘理いちごっこのスタッフ約15人がカフェ運営のほか、傾聴ボランティアなどに携わり、仮設住宅内外の被災者支援に当たる。連絡先は亘理いちごっこ070(6952)4517。