【読売新聞111111】被災地に建築家が設計した集会施設や、仮設住宅の完成が相次いでいる。被災者の立場を考えた造り、質の高いデザインは、今後の災害支援で求められる建築のモデルとなりそうだ。三つの事例を紹介する。(文化部 高野清見)
海上輸送コンテナ活用
坂(ばん)茂氏「多層コンテナ仮設住宅」
宮城県女川町の町民野球場で6日、3階建てコンテナ仮設住宅の入居が始まった。避難所の間仕切りや、紙管による建築で国内外の災害救援を行う坂茂氏が、平地が少なく用地が足りない同町に提案した。坂氏の仮設住宅案が、日本で実現したのは初めてだ。
海上輸送用コンテナ(長さ6メートル、幅2・5メートル)を重ねた2階建て3棟45戸、3階建て6棟144戸を設計。前もって製造工場で窓などを開けたコンテナと、フレームを互い違いに積み、フレーム部分も部屋にするなど、合理化を図った。
10月中旬から2階建てコンテナ仮設住宅に住む被災者は「住み心地は快適。鉄骨も見えないし、音も気にならない。普通のアパートみたい」。坂氏は「仮設住宅はあまりにも質が悪い。もっと質を上げる必要がある」と語り、これを一つのモデルとしたい考えだ。
組み立て簡単 量産可能
難波和彦氏「KAMAISHIの箱」
岩手県釜石市の鈴子公園と大只越(おおただごえ)公園に、難波和彦氏(東大名誉教授)が設計した2棟がほぼ完成した。箱のように単純な形。表面を焼き、ブラシでこすった杉材の外壁は簡素な美を備える。中は一室だけの空間で、カフェやイベント会場などに使えそうだ。
「箱の家」と呼ばれるシンプルな住宅設計で知られるが、今回は木造の在来工法を用いながら、規格化したパネルに分解して設計。工場で加工して現地に運び、簡単に組み立てられる。プレハブと同じく量産可能な建物となった。
災害時に復興支援の建物を手がけるのはプレハブメーカーやハウスメーカー、ゼネコン、工務店など。難波氏はたまたま建築関係者との個人的つながりから、設計を頼まれたという。
「生産現場のシステムから建築家は疎外されてきた。お呼びじゃないのは当然です。でも僕は、依頼があれば全力を挙げてやろうと思った。良い建築と思ってもらえ、自分の所にも、となればいい」と語る。
住民希望で縁側設置
伊東豊雄氏「みんなの家」
仙台市宮城野区の仮設住宅地に10月26日、伊東豊雄氏が中心になって設計した集会施設が完成した。被災者が安らぎ、復興を語り合う「みんなの家」を各地に建てよう、という伊東氏の提案に熊本県が協力。約1000万円をかけ、熊本県産の木材で建設した。
現代建築をリードする人とは思えない、素朴なまでの木造家屋。住民から「仮設にはないひさしが欲しい」「縁側があれば将棋も指せる」といった希望を聞いて設計した。「表現者として、今まで造ってきたものと、無名性に近い今回の建築との間をどう埋めるのか葛藤はあった。でも、多くの人が関わって造るプロセスは楽しかった」と伊東氏は振り返る。
本当に必要とされる建築とは何なのか、建築家それぞれに自問自答が続く。