自慢のスギと大工、仮設住宅建設で役立つ
【朝日新聞110509】良質な建材になる気仙スギの産地・岩手県南部沿岸で、木造仮設住宅の建設が進む。江戸時代から宮大工の技を持つ気仙大工が活躍した林業と製材業が盛んな地域で、震災復興で見込まれる木材需要を地域浮揚の足がかりにしたいとの思いがある。被災者の雇用も生んでいる。
同県住田町の町営住宅跡地にこぢんまりとした、さわやかな白木の壁の木造住宅が13戸建った。
町が4月下旬に建てた木造仮設住宅だ。壁も床も気仙スギなどの木材を使った一戸建てで、2DKで約30平方メートルの間取りは標準的なプレハブ仮設と同じ。町は5月中旬までに約100戸を造る計画だ。
「木のぬくもりと、においがある。被災者もほっと一息つけるのではないか」と4月末に視察に訪れた阿久津幸彦・内閣府政務官も関心を示した。
木造仮設住宅は、多田欣一町長が今年初めに町の第三セクター・住田住宅産業に開発を指示していた。町の基幹産業である林業と木工の販路拡大のための一策だった。大災害に備え、資材を備蓄してはどうかと国に働きかけているさなかに、東日本大震災が起きた。「まさか、自分たちの足元で、こんなに早く必要にな るとは思わなかった」と多田町長は話す。
町によると、床や壁に使う資材は町内の木材加工工場であらかじめ処理済みで、現場での組み立ては簡単だ。1戸あたり約250万円と、コスト面でもプレハブと遜色がないという。
仮設住宅は通常、災害救助法に基づき県が設置するが、今回はミュージシャンの坂本龍一さんが代表の森林保護団体モア・トゥリーズ(東京都)がまかなう。必要な資金約3億円を負担すると町に申し出た。団体はインターネットなどを通して寄付を募るという。
岩手県も、県産材を活用した仮設住宅の建設を目指す。県内で必要と見込む約1万8千戸のうち、約1万戸はプレハブを発注。残りの大半は木造で、公募で選んだ21業者に発注する。
住田住宅産業もその一つで、佐々木一彦社長は「仮の住まいとはいえ、木の家で安らいでもらいたい。将来、住宅を再建するときに、気仙スギの家を選んでもらえれば」と話す。
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住田町の木材加工会社「けせんプレカット事業協同組合」の工場は、大型連休中もフル稼働している。
岩手県陸前高田市の佐々木輝昭さん(26)が先輩社員の指導を受けながら、仮設住宅用の木材を機械で加工していた。組合が被災者を対象に募集した臨時職員に採用された。同組合は約200人のグループ社員の給与を7~10%削るワークシェアリングで、75人の臨時職員を募っている。
佐々木さんは自宅を津波で流され、父を亡くした。夏に向けて野菜の苗を植えたビニールハウスは全滅。「塩害とがれきで畑がいつ元に戻るかわからない。仕事が見つかったのは本当にありがたい」と話す。
復興需要への期待もある。組合によると、震災直後に一時、落ち込んだ受注は4月に入って回復。その後は仮設住宅や住宅再建をにらんで、ふだんの倍近い受注があるという。
泉田十太郎専務理事は「住宅再建の動きが本格化すれば、臨時雇用の一部は社員として採用できる」とみる。
輸入材におされ、木材価格の低迷に泣いてきた林業農家もこうした動きを注視している。気仙地方森林組合のはの木澤(はのきざわ、「はの」は木へんに爪)光毅・代表理事組合長は「家を建てるときに木材の産地にまでこだわる人はまだ少ない。復興を通して、気仙スギのブランドを知ってもらえれば」と期待している。(野崎健太)
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