【読売新聞110602】横浜国立大学と読売新聞横浜支局は1日、東日本大震災の被災地を調査や取材で訪れた大学人や記者による緊急報告会を、神奈川県横浜市保土ヶ谷区神戸町の横浜ビジネスパーク(YBP)で開いた。
「津波対策に避難ビル建設を急ぐべきだ」「今の仮設住宅の建て方だと地域社会が崩れる」など、現場を踏まえた具体的な提言が出され、集まった同大の学生や研究者、消防関係者ら約200人からも、報告者に質問が相次いだ。
報告会の冒頭、鈴木邦雄学長が「研究成果を社会に還元するのが大学の責務。報告会を従来のエネルギーの使い方やこれまでの価値観を変える機会としたい」と開催趣旨を説明。
続いて講演した古尾谷光男副知事は、「高度成長期に水田などを埋め立てた住宅地で液状化現象が起きた」などと、県内の被害状況を報告した。
「東北のその時、今は」と題したパネル討論第1部には、現地で被害調査を行った研究者3人が登場。
海洋研究開発機構の小平秀一上席研究員は、今回の巨大地震について「日本列島ののる北米プレートに太平洋プレートがもぐり込んで起きた」と説明し、震源域の南側で今後、大地震が起きることを「十分警戒すべきだ」と指摘した。
横国大大学院都市イノベーション研究院の佐々木淳教授(水環境)は「防波堤や防潮堤で津波被害を軽くできた。津波に耐えうる鉄筋コンクリート造りの高い建物を新たに建てる避難ビル整備も急務だ」と訴えた。
同研究院の田才晃教授(コンクリート構造物)は「まず耐震、免震性のある建物を建てる必要がある。沿岸部の建物は鉄筋コンクリート造り、津波の到達しない内陸部には木造家屋を建てるなど、津波に強い町づくりを考える必要がある」と述べた。
「復旧・復興へ向けて」をテーマとしたパネル討論第2部では、研究者や新聞記者4人が報告。
同研究院の佐土原聡教授(防災環境エネルギー)は「津波の破壊力を軽くするのに、森林を活用した対策を行うべきだ」と提言。また、「横浜市鶴見区の清掃工場で出る排熱をみなとみらい地区で熱源として使う仕組みなら、災害時でも近隣地区でエネルギーを自給できる」と指摘した。
同研究院の山本理顕客員教授(建築学)は阪神大震災の仮設住宅の事例を踏まえ、「東北でも仮設住宅の北側に玄関、南側に採光窓という建物ばかり建てられている。住民同士の交流が減り、地域社会が崩れる」と指摘。「飲食店や自転車店だった被災者に仮設住宅で開業してもらうなど街づくりが必要」と訴えた。
横国大大学院国際社会科学研究科の長谷部勇一教授(経済学)は「原発汚染による被害額や原発の廃炉にかかる核燃料の処分費など、コスト分析をすることが必要」と述べた。
福島県内で被災地を取材した読売新聞横浜支局の小林直貴記者は「岩手、宮城県と原発事故のあった福島県では状況が全く違う。福島ではいつ家に戻れるかメドがたたない。これがニュースを把握するための大前提」と語った。