仮設住宅で「孤独死や自殺者出さない」
【毎日新聞110712】宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区などの被災者148人、102世帯が暮らす同市箱塚の「箱塚桜仮設住宅」。ひきこもりがちなお年寄りや、学校や遊び場を失った子どもたちの元気を取り戻そうと、住民自身が手探りで取り組みを始めている。「決して孤独死や自殺者を出さない」が合言葉だ。
敷地内を約100メートルにわたって続く舗装通路。子どもが自転車で走り回りボール遊びを始めると、涼みに出てきたお年寄りがほほ笑みながら声をかけた。名付けて「桜大通り」。午前11時から午後5時までは車の通行は禁止。「子どもやお年寄りの笑顔は、みんなの勇気や希望の源。だから大切にするのです」。この仮設住宅の自治会長、大脇兵七さん(72)が説明する。
仮設住宅は5月初旬から入居が始まった。多くが同じ集落の被災者だったが、他の集落から来た人など、お互い面識のない人たちもいた。まず自治会がつくられ、会長になった大脇さんの頭をよぎったのは、阪神大震災で問題になった孤独死や自殺だった。そうしたことを防ごうと、住民と話し合いを重ねた。
敷地内に建設された集会所では、NPOやボランティアの協力を得て、未就学児を集めてお年寄りらと遊ぶ「チャイルドパーク」を始めた。来月にはみこしを手作りし、夏祭りを開催する予定だ。
荒木保子さん(69)は集まりを通して、友人ができた。「暑くてこもってられないし、頭がだめにならないように参加するんだ」と笑う。近くの別の仮設住宅からは、ここに遊びに来るために1カ月ぶりに外に出たという人もいた。
17の棟ごとに班長を決めて、見守り合う。家に閉じこもりがちの人もいたが、自治会メンバーが一戸一戸を訪ね歩いた結果、ほぼなくなったという。
名取市仮設住宅管理室の佐竹悦子・技術主幹は「仮設住宅のコミュニティー形成の一つのモデルケース」と話す。だが、仮設住宅暮らしはこれからが長い。大脇さんは「今はまとまっているが、置かれた状況はそれぞれ違う。生活が整い出ていく人たちが増えた時、残された人がどうなるのか。それが心配」と課題を指摘した。