沿岸支援、遠野が拠点...被災地と内陸結び
【毎日新聞110418】岩手県の沿岸市町村が震災で被災し電話などの通信手段が途絶える中、内陸にある遠野市は、発生後16時間ほどで灯油や水などの救援物資を被災地に送り届 けていた。きっかけは隣町から駆け付けた男性の救援要請。遠野市や沿岸の計8市町は08年から、沿岸が被災した際の「後方支援拠点施設」を遠野市に整備す るよう国や県に提言していた。提言はいまだに具体化されていないが、その有効性が証明された形だ。【苅田伸宏、山川淳平】
「大槌高校で約500人が孤立している。毛布や食料が足りない」
震災発生から約11時間後の3月12日午前1時40分。暗闇の中から遠野市役所の災害対策本部に駆け込んだ佐々木励(つとむ)さん(29)は、応対した担当者にそう伝えた。
釜石市内で板金店を営む佐々木さんは震災発生時、県立大槌高に勤務する妻絵梨子さん(33)と連絡が取れず、同校へ車を走らせた。沿岸の道路は通 行止めのため、遠野市経由で大槌高に到着。住民が続々と集まる中、絵梨子さんの無事は確認できた。「避難者に対応するために残る」と言うので自宅に戻ろう とすると、学校関係者から声をかけられた。
「毛布や食料が足りない。遠野なら被害が少ないかもしれない。帰りに寄ってくれないか」
遠野市は沿岸と内陸を結ぶ宿場町として発展。盛岡市や被災した沿岸市町村まで50キロ圏内のうえ、安定した地質で被害が出にくい。震災の負傷者は軽傷の2人だけだった。
通信が途絶える中、佐々木さんの救援要請は遠野市が最初につかんだ生の被災情報となった。市はすぐに備蓄していた毛布250枚、乾パン500個、 灯油90リットル、水250本を車に積んで消防隊員2人を出発させ、午前7時ごろ同校に到着。高橋和夫校長は「感謝の気持ちでいっぱい。食べるものがな かったので神の恵みだと思った」と振り返る。
この支援を皮切りに、遠野市は手探りながら後方支援に本腰を入れた。1カ月で延べ約2000人の市民ボランティアが計約14万個のおにぎりを作っ た。全国から寄せられる物資を仕分けて送り、遠野運動公園は自衛隊や警察、消防の拠点に活用された。本田敏秋市長は「具体的な行動マニュアルはなかった が、搬送した職員が被災地のニーズを聞いてきて、何ができるか日々考えた」と言う。
遠野市と沿岸部の計8市町は08年から、国や県に対し「岩手県沿岸は、有史上多くの津波被害を受けており、被害に対する支援体制の構築が求められている」として「三陸地域地震災害後方支援拠点施設」を遠野市に整備するよう提案した。
具体的には▽支援物資の備蓄や仕分けのできる施設の新設を求める▽被災時には同市の施設も活用して、県や自衛隊の指揮本部や救急支援本部を置く --といった計画だが、まだ採用はされていない。市の沢村一行経営企画室副主幹は「次の大地震が当分ないとは言えない。今回の経験を貴重な検証材料とし て、今後に生かさなければ」と話している。
毎日新聞 2011年4月18日 12時03分