見えぬ生活再建 自他買う避難者、住宅修繕踏み切れず
【河北新報110813】1階が津波で被災した自宅の2階などで生活する「在宅避難者」が多い宮城県石巻市では、東日本大震災の発生から5カ月がたった今も、台所や風呂が使えない厳しい環境で暮らす被災者も目立つ。被災規模が大きいことに加え、仮設住宅への入居や、自治体の復興計画づくりが遅れていることなどが背景にある。
<ガスも電気もなく>
旧石巻市役所に近い中央1丁目の会社員杉山創さん(62)は、1階天井まで水に漬かり、ガスも電気もない自宅で暮らす。夜は懐中電灯で明かりを採り、携帯式ラジオを聞く。食事は、地区の配給所に市から届く弁当やおにぎり、パンだ。
妻の愛子さん(59)は震災当日、外出先から「渋滞に巻き込まれている」とのメールを送ってきたのを最後に行方不明。「妻を迎える準備をしたい」と6月の百か日に合わせ、近所の避難所から自宅に戻った。
仮設住宅を申し込んでおり、台所も風呂も改修しないつもりだ。自宅はいずれ取り壊すしかないと考えている。泥を払った仏壇の近くに妻の写真を飾ったが、葬式を出す気にはまだなれない。「仮設住宅が当たるまで今の生活を続ける」と話す。
店舗兼自宅が立ち並ぶ中央地区では、現地での住宅再建を目指す人も多い。ただ、建築基準法による建築制限が掛かる区域で新築や改築は困難。土地利用の方針を示す復興計画がなかなか見えず、住宅再建にも影響を与えている。
<建築制限が障壁に>
中央1丁目の菓子製造販売の西條稔さん(70)は、1階が浸水した鉄骨3階の店舗兼自宅の壁がはがれて工事用の足場が組めず、都市ガスを自宅に引き込めない。ガス復旧には改築が必要だが見通しは立たない。西條さんは「建築制限が外れないと前に進めない」と嘆く。
「復興計画の内容次第では移転を求められる」として、自宅の本格修繕に踏み切れない被災者も少なくない。
1階が浸水した全壊状態の住宅が広範囲に広がる大街道地区。大街道南3丁目の自宅の一部を、住民向けの食料配給所として提供している会社社長佐々木公男さん(65)は「費用を掛けて直していいものか、多くの住民が迷っている」と明かす。周辺では約180人が食料配給を受け生活する。
石巻市によると、3食相当分の配食を受けている在宅避難者は約1万人。車がなければ日常の買い物が難しい地域の市民も含まれており、避難生活の解消には時間がかかりそうだ。