まちづくり(1)住居移転に不透明感
【河北新報110728】宮城県は、東日本大震災からの復興を今後10年間で達成するとした「県震災復興計画」2次案をまとめた。被災地の単なる復旧ではなく、壊滅的被害から抜本的な再構築に向けた復興モデル構築を目指した。震災発生から間もなく5カ月。ようやく見え始めた県土再興ビジョンの要点を、被災地の声とともに整理する。(5回続き)
宮城県が16日、県大河原合同庁舎で開いた復興計画2次案の県民説明会。山元町から大河原町の公営住宅に避難している会社員高橋知代子さん(48)は、いま一番の気掛かりを県幹部にぶつけた。
「津波で自宅が被災したが辛うじて建っている。ローンがあるので、このまま住み続けていいものかどうか、知りたい」
自宅は海岸から1.5キロ離れたJR常磐線の東側にある。業者には「リフォームすれば住める」と言われている。津波の再来は怖いが、慣れ親しんだ土地からは離れたくない。気になるのはまちづくり計画の行方だ。
<生命守る県土へ>
2次案は「災害に強いまちづくり宮城モデルの構築」を掲げる。津波で壊滅的被害を受けた教訓から、「再来しても県民の生命が守られる県土づくり」(県震災復興・企画部)を基本に据える。
核となるのは、住宅や公共施設の「高台移転」、職場と住居の場所を離す「職住分離」、道路や鉄道を盛り土構造にして堤防機能を持たせる「多重防御」の3本柱だ。
平地が少ない気仙沼市などの「三陸地域」「石巻・松島地域」は高台移転と職住分離を進め、平野部の山元町など「仙台湾南部地域」は多重防御を図り、沿岸の住宅地は内陸側へ移転させる。
村井嘉浩知事は「同規模の地震、津波が真冬の真夜中など最悪の状況で起きるかもしれない。安全な場所への移転は譲れない一線だ」と訴える。
<1兆円超が必要>
だが、計画の実現には不透明感がつきまとう。
県は集団移転と土地区画整理で、少なくとも1兆円の財源が必要と試算するが、国庫補助に限度がある現行制度では、被災市町の負担は7割に達し、「工面することは到底不可能」とされる。
職住分離にも異論が出ている。公共政策に詳しい広井良典千葉大教授は県震災復興会議で「地域コミュニティーを分断する恐れがある。最近のまちづくりは職場と住居を分けない」と指摘した。
県は「従前のまちづくりを認めたら、災害から何も学んでいないことになる」と方針を堅持する構えだが、政府が21日に決めた復興基本方針の骨子は、高台移転や職住分離を必ずしも強く打ち出してはいない。
<「身動き取れず」>
高橋さんは、内陸への移転を求められれば、自宅再建をあきらめるつもりでいる。しかし、「まちづくりの方針がはっきりせず、全く身動きが取れない」といら立つ。
「復興計画は絵に描いた餅になるのか」。県民説明会で出席者の一人が単刀直入に聞いた。三浦秀一副知事は「いま百パーセント実現できるとは正直言えない」と話し、危うさを認めざるを得なかった。(長谷美龍蔵)
◇主な事業と実施年度
・津波避難施設等整備事業 (2013~17)
・地域高規格道路整備事業 (2011~17)
・公共土木施設災害復旧事業 (2011~13)
・被災施設再建支援事業 (2012~17)
・がけ地近接等危険住宅移転事業(2011~15)