【東京支部】 「2020年東京オリンピック・パラリンピックの関連施設等に対する提言2」 を発表

 新建東京支部は「2020年東京オリンピック・パラリンピックの関連施設等に対する提言2」を発表しました。(2016年5月8日支部幹事会にて確認、5月11日東京問題研究会にて一部修正・発表、5月21日全国常任幹事会にて連名で発表)

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2020年東京オリンピック・パラリンピックの関連施設等に対する提言2

 2016年5月8日 新建築家技術者集団 東京支部 

 

 私たち新建築家技術者集団(略称「新建」)は、2年前の2014年6月7日、「2020年東京オリンピック・パラリンピックの関連施設等に対する提言」をまとめ、国や都、五輪関係組織、さらに市民、建築技術者に届け伝えました。五輪の施設計画はその後いくつかの修正がなされて今日に至っていますが、現状は私たちの提言とはかけ離れたもので、多くの問題と欠陥を抱えています。そこで、私たちの前回の提言とその後の活動を改めて紹介し、現状の問題点と今後改善すべき点を新たに提言いたします。

 

Ⅰ 私たちが2年前に行った提言とその実現のための活動

 私たちの2014年の「提言」の要点は次の通りです。

① 既存施設を改修しての最大限活用

 2020年の五輪東京開催は、東日本大震災の復興の障害になることが明らかであり、本来、東京で開催することに大きな疑問を感じるが、すでに世界の人々に開催を約束してしまった以上、IOCの「アジェンダ21」に合致させたオリンピック・パラリンピックとすべきである。即ち、新規施設は極力建設せず、最大限、既存施設を改修して使用し、環境破壊を最小にする計画とする。

② 各施設計画への提言

イ)半径8km以遠の施設は使用しないという原則を取り止め、駒沢の競技施設等、前回1964年のオリンピック時に建設した施設をはじめ使用可能な施設を極力利用する。

ロ)国立競技場は建て替えるのでなく改修して使う。

ハ)カヌー競技場を葛西臨海公園内に新設する計画は中止する。

ニ)選手村の民間デベロッパーに丸投げする計画は再考する。等々です。

 提言発表直後、私たち新建は、10を超える団体と個人が'14年2月に結成した「2020オリンピック・パラリンピックを考える都民の会(略称「オリパラ都民の会」)」に組織加盟し、以後、関係機関に出向いて要請するなど同会と行動を共にしてきました。多くの人々の努力の結果、カヌー競技場は隣接の都有地に場所を移動することになり、'14年12月、IOC「アジェンダ2020」が採択される前後には、私たちが要請したように、都は「半径8km以遠の施設は使用しないという原則」を取り下げました。ヨット競技場の若洲新設は江の島ヨットハーバーに変更。馬術も馬事公苑に変更。夢の島ユース・プラザ・アリーナの新設は「さいたまスーパーアリーナ」等に変更するなど一定の前進がありました。また、大井運動公園内のホッケー会場は既存の野球場6面全てを残すように計画の見直しがなされ、有明の14面のテニスコートも大会後、復旧することになりました。これらは運動の結果と評価できるものです。

 しかし、その他の施設に関しては、国、都は提言を受け入れず、国民に情報を隠して、環境とコストを無視した巨大施設建設を中心とする当初の計画を強引に推し進め、2015年3月には既存の国立競技場解体工事に着手するという暴挙にまで進んでしまいました。しかし、この間の運動と批判的世論の高まりのなかで、7月17日、「新国立競技場建設計画」は、技術、コスト、工期において全く成り立たない計画であることを、首相自らが認め、「計画の白紙撤回」を表明する事態に至りました。

 

Ⅱ 現在進行している施設計画の深刻な問題点

 こうした経過にもかかわらず国立競技場を巡る展開は、私たちが提言した簡素さとは似ても似つかないものとなっています。さらに、東京都が受け持つ施設に関しても同様の問題を私たちは感じています。以下に問題点を指摘します。

 

A 国立競技場「白紙撤回」後も未解決の問題点

1.巨大施設のまま新国立競技場を建設しようとしている問題

① 都市計画の変更をしない白紙撤回は二枚舌

 首相と関係閣僚は「白紙撤回しゼロベースで考える」と喧伝しましたが、実体は全く異なります。白紙撤回ならば風致地区に伴う高さ制限を15mから75mに変更した、都市計画の私物化とも言える、2013年6月の誤った都市計画変更にまで遡らなければならないはずです。霞ヶ丘都営アパートの取り壊しも撤回されず、周辺の便乗民間再開発もそのままでは、とても「白紙撤回」とは言えません。

② 風致地区の規制がかかった敷地に巨大すぎる建物

 「白紙撤回」後、遠藤大臣がアスリートや有識者から意見を聞くというパフォーマンスを行いましたが、良心的な意見は全く無視しています。例えば建築分野では、槇文彦・大野秀敏、森山高至氏が面談し、規模を縮小すべきとの意見を述べましたが、採用されたA案では、延べ面積で1割程度の縮小にとどまっています。いくら基本理念で「周辺環境との調和」と謳っても、敷地に対し大規模過ぎることに変わりはありません。

2.アスリートと市民のための施設になっていない問題

① 「アスリート第一」は嘘

 以前の計画が、コンサート利用を掲げて迷走したことから「アスリート第一」が掲げられました。しかしコンペの条件には以前同様サブトラックが仮設とされているため、大会終了後には撤去され、本格的な陸上競技場としては使えません。さらに、大会後はグランド内へ向け1万2000席を増設して計8万席確保とされており、これはサッカー界の要望に応えたものですが、大会後はサッカー・ラグビー場とするとも言っていません。つまりこの巨大な競技場の将来目標が不明確のまま進んでいます。

② 維持管理費が伏せられている

 大会後の維持管理費は総工事費と併せ、問題になってきましたが、新計画では、どのような運営をするのかを含め伏せられています。関係閣僚会議記録には「大会後にスタジアムを核として、周辺地域の整備・・・民間事業への移行・・・ビジネスプランを公募の検討を早急に開始する」とあります。大会後に市民の活用がどう図られるのか、早急に運営方針と維持管理費用を明確にすべきです。

3.国民的アイデアを汲み上げられない「公募型プロポーザル」

① 2チームしか参加できなかったコンペ

 「白紙撤回」後、時間がないという理由で「公募型プロポーザル」と称し、「DB(デザインビルド)方式」で新たにコンペが実施されました。これは、設計者と施工者によるチームをつくらなければ応募できないという方式です。予想通り、応募者は、「Aチーム(大成建設+設計者)」と「Bチーム(大成以外の大手ゼネコン連合+設計者)」という2チームだけでした。アイデアと参加意志を持ちながら、ゼネコンに断られ、応募条件を満たせず、提案の舞台に乗れなかった建築家や設計事務所が、当初コンペで最優秀のザハ・ハディド氏を含め複数ありました。結局、コンペによって広く国民的・国際的アイデアを求めるという表向きの目的すら果たせなかったということです。

② 審査に対する疑問

 コンペの審査では本来は審査員による討議が最重要ですが、今回は単純な「評点方式」で行われました。「業務実施方針」20点、「コスト・工期」70点、「施設計画」50点とし、7名の審査委員が採点し集計するというものです。結果は、Aチーム(大成・梓・隈研吾)610点、Bチーム(竹中、清水、大林・日本設計・伊東豊雄)が602点となり、僅差でAチームが優先契約権者となりました。しかし疑問の残る結果です。一般的に、コンペを実施する理由は、よりよいアイデアやデザインを見つけ出すためであり、「施設計画」の評価が最も大事です。この「施設計画」の項目では、採用されたAチームが246点、落選のBチームが270点となっており、Bチームの評価の方が上なのです。

 結果発表後、ザハ・ハディド氏側はJSCにAチームの案のスタンド部分が「驚くほど似ている」と文章で抗議し、Bチームの設計を担当した伊東豊雄氏もA案とザハ・ハディド案の類似性を告発しました。これに対し審査委員会が口をつぐんでいるのは不可解です。

 

B.東京都が担当する競技施設の際限なき工事費増大

1.東京都が国立競技場工事に400億円負担する理由は何か

 舛添知事は東京都が工事費の約1/4(関連費用含め448億円)を負担すると表明しました。しかし国立の施設に自治体が負担するのは違法です。それに気づいた政府は後追いで新法をつくり合法的に都が費用の1/3まで出せるようにしました。明治公園や霞ヶ丘都営アパートの敷地の提供の上に高額の負担は理不尽です。さらに、大会組織委員会が担当すると決められていた「仮設施設」の一部を都が負担することになりました。際限なく拡大する都の負担に納得できないのが多くの都民の気持ちではないでしょうか。

2.東京都の担当する施設も国立競技場と同等以上に問題です

 都が都議会に提出した資料によると、東京都が整備する五輪施設も、以下のように、当初予算と比べて大幅な増額となっています。(既存施設活用に変更した施設の当初予算計456億円は省略します。)

立候補ファイル予算  → 2015.8/7時点予算 差額  
①オリンピックアクティクスセンター 321億円  → 683億円

   +

362億円 (2.1倍)
②海の森水上競技場

69億円

 → 491億円 + 422億円 (7.1倍)
③有明アリーナ 176億円  → 404億円 + 228億円 (2.3倍)
④カヌー(スラローム)会場 24億円  → 73億円 + 49億円 (3.0倍)
⑤大井ホッケー競技場 25億円  → 48億円 + 23億円 (1.9倍)
⑥アーチェリー会場(夢の島公園) 14億円  → 24億円 + 10億円 (1.7倍)
⑦有明テニスの森 59億円  → 144億円 + 85億円 (2.4倍)
⑧武蔵野の森総合スポーツ施設 250億円  → 351億円 + 101億円 (1.4倍)

⑨IBC/MPC(東京ビッグサイト)

144億円  → 228億円 + 85億円 (1.6倍)
⑩その他 0       → 23億円 + 23億円  
合計 1,082億円  → 2,469億円  +  1,367億円 (2.3倍)

 要するに、あれだけ問題になった新国立競技場が、1,300億円→1,550億円、即ち「+250億円(1.2倍)」であるのと比較しても都の施 設の、「+1,367億円(2.3倍)」という当初予算のオーバーぶりは尋常ではありません。さらに選手村にも高潮防止等、都の基盤整備に相当の金がかか ると思われます。都はこのようになった理由を都民に説明すべきです。

 

Ⅲ 意義ある施設にするための私たちの提言

  東日本大震災から満5年が経過した現在もなお避難者は17万人余。内、汚染水が増え続ける福島原発事故の避難者は10.5万人で、仮設住宅に5.7万人が 暮らしています。その上、この度の甚大な熊本地震の発生です。この状況下にあって、私たちは国、都、五輪関係機関等に、以下の事項を提言します。

1)障害者を含む利用者やアスリートの意見をよく聞くこと

  競技しやすく、観やすく、安全な競技場にすることは当然として、五輪終了後、市民が日常的にリーズナブルな負担でスポーツに親しめる施設にすることが必要 です。そのためにどのように運営されるべきかを、障害者を含む関係者(市民、利用者、競技者、施設運営者、設計者、施工者等)の意見をよく聞いて計画・設 計に反映させる仕組みをつくり、今からでも情報公開しながら進めることを要求します。

2)計画と工事に関する徹底した情報公開

 既に「新国立」及び「都施設」の一部はDB方式で発注済です。これから続々と発注されることと思われますが、関係者の意見が反映した計画になっているか、税金の無駄遣いになっていないか、を市民がチェックするためには、徹底した情報公開が必要です。

3)良い設計・施工が出来る環境づくり

 アスリートや市民の要求を具体的な形として実現させるためには、設計者が良い設計をしなければなりません。良い設計に結びつくよう、設計者の選び方、設計工期を十分とる等の配慮をすることを求めます。これは建築技術者としての切実な要求でもあります。

4)建築の専門家が第三者として施工監理等に関わる仕組みの導入

  これから2020年に向けて、短期間に都の関係する大規模な工事が集中しますが、新国立競技場を担当するJSCのみならず、技術者のリストラが進んでし まった今の東京都の設計・施工監理の能力は要求水準に追いつかないと思われます。この機会に、かねてから建築諸団体等が要請している「コンストラクショ ン・マネジメント方式」等、建築専門家が第三者として施工監理等に関われる仕組みを導入し、ゼネコンをしっかりコントロールし、よりよい設計・施工を実現 することを要求します。

5)選手村は超高層を取りやめ、公営住宅を取り入れる

 選手村は基盤整備後、建設を民間事業者に委ねることとなっていますが、これは20数倍の応募者がいる都営住宅の現実を全く無視しており、全面的見直しが必要と考えます。多くの問題点がありますが、現時点では次の2点を要求します。

①選手村に使う住宅は、中層以下の公営住宅として建設する。

②大会後に建設を計画している超高層住宅2棟は、全く不必要であり、取りやめて公園に充てる。

6)ボート競技は埼玉の「彩湖」使用、カヌーのスラローム会場は仮設とする

 ボー ト競技場の「海の森水上競技場」は当初予算の7倍に増え、海風の影響も懸念されており、戸田市長や市民、ボート競技関係者が提言する「彩湖」に変更するこ と、カヌー(スロラーム)会場は間近に干潟がある海浜への影響と大会後、高額の維持費が必要と予想されるので仮設への変更を求めます。 

7)五輪をユニバーサル・デザインの東京への改造のチャンスに

  私たちは建築とまちづくりにたずさわる技術者として、2年前の「提言」の最後を次のように締めくくりました。「東京を歩行者や自転車が安全快適に使える緑 豊かなまちに造り替える。身障者にも高齢者にも幼児をつれた家族にも優しいまち、誰もが支障なく移動できるユニバーサル・デザインのまちに造り直す。外国 から来たパラリンピックの選手や関係者に対しても誇れるまちに造り替える。」同じ言葉で「提言2」を締めくくることにします。 

以上

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